# ブラックホールの先にあるもの：事象の地平面、スパゲッティ化、そして蒸発

> 光さえ逃げられない天体はなぜ存在できるのか。脱出速度からシュワルツシルト半径を導き、落ちる人を待つ潮汐力、ホーキング放射による蒸発、ワームホールが通り抜けられない理由までを数値つきで追います。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/cosmology/black-holes

## 0. この記事の要点

- ブラックホールとは「脱出速度が光速を超えてしまう領域」のことで、その境界が**事象の地平面**です。質量 $M$ の天体では、半径 $r_s = 2GM/c^2$ の球面がそれにあたります。
- 地平面の大きさは質量に**比例**します。太陽をブラックホールにすれば半径 3 km、地球なら 8.9 mm、体重 60 kg の人なら陽子の 100 億分の 1 です。
- 事象の地平面は壁ではありません。巨大なブラックホールなら、落ちる本人は何の衝撃も感じずに通過します。人を殺すのは重力の強さではなく、重力の**差**（潮汐力）です。
- ブラックホールは完全な黒ではありません。ホーキング放射により温度 $T \propto 1/M$ の熱を放ち、$M^3$ に比例する時間で蒸発します。太陽質量なら $10^{67}$ 年、つまり実質的に永遠です。
- ワームホールはアインシュタイン方程式の解として確かに存在します。ただし普通の物質でできたものは、光が通り抜けるより速く潰れてしまいます。

## 1. 動機 — 「光が逃げられない星」は 18 世紀の思いつきだった

ブラックホールというと、アインシュタインの一般相対性理論から出てきた 20 世紀の産物だと思われがちです。ところが、この発想の原型はニュートン力学の時代にすでにありました。

1783 年、イギリスの牧師で自然哲学者のジョン・ミッチェルが、王立協会の紀要にこんなことを書いています。天体が十分に重くて小さければ、その表面から放たれた光は重力に引き戻されて戻ってきてしまう。そういう「暗い星」は、我々には決して見えないはずだ、と。13 年後、フランスのラプラスも独立に同じ計算をして、著書のなかで同じ結論に達しています。

彼らの論法は、大砲の弾を真上に撃ち上げる話とまったく同じです。弾が遅ければ落ちてくる。速ければ宇宙へ飛び去る。その境目の速さを**脱出速度**といいます。地球なら秒速 11.2 km です。では、脱出速度が光速 $c$ を超えるほど重くて小さい星があったら、光は逃げられないのではないか。素朴ですが、鋭い問いです。

ただし、この推論には後から見ると穴があります。ニュートン力学の光は「速度が変わる粒子」ですから、減速しながら上がっていき、途中で折り返して落ちてくることになります。つまりミッチェルの「暗い星」の表面から出た光は、しばらくのあいだ星の上空をさまよっているはずです。近くまで行けば見えてしまう。本物のブラックホールはそうではありません。**光の速さは誰から見ても $c$ で変わらない**という相対性理論の前提のもとでは、光は減速できないのに、それでも外に出られないという、はるかに奇妙な状況が起こります。

その正確な記述は 1916 年、カール・シュワルツシルトによって与えられました。アインシュタインが一般相対性理論を発表した翌年、第一次世界大戦の東部戦線に従軍していた彼が、球対称な天体のまわりの時空の形を厳密に解いたのです。彼はその数か月後に病死しますが、解のなかに現れた半径 $r_s = 2GM/c^2$ は、いまも彼の名で呼ばれています。「ブラックホール」という呼び名が定着したのは、それから半世紀後の 1960 年代のことでした。

面白いのは、ミッチェルとラプラスのニュートン流の計算が、**答えの数値としては正解と一致する**ことです。この記事ではまずその計算を追い、次に「なぜそれが正しいのか、どこまでが偶然なのか」を確認します。そのうえで、落ちたらどうなるか、ブラックホールは永遠なのか、向こう側に出られるのか、という三つの問いに進みます。

## 2. 準備 — 脱出速度

まず出発点になる高校物理の道具を確認しておきます。

<Definition id="def-escape-velocity" title="脱出速度">
質量 $M$、半径 $R$ の球対称な天体があるとする。その表面から真上に打ち出した質量 $m$ の物体が、途中で引き戻されることなく無限に遠くまで到達できるための、打ち出し速さの最小値を**脱出速度**といい、$v_{\text{esc}}$ と書く。ただし空気抵抗と、天体以外の重力は無視する。
</Definition>

<Proposition id="prop-escape-velocity" title="脱出速度の公式">
<Ref to="def-escape-velocity" /> の設定のもとで
$$
v_{\text{esc}} = \sqrt{\frac{2GM}{R}}
$$
が成り立つ。ここで $G = 6.674 \times 10^{-11}\ \mathrm{N\,m^2/kg^2}$ は万有引力定数である。この値は打ち出す物体の質量 $m$ によらない。
</Proposition>

<Proof of="prop-escape-velocity">
中心から距離 $r$ にある質量 $m$ の物体がもつ万有引力の位置エネルギーは $U(r) = -GMm/r$ です。無限遠を基準にとっているので符号は負になります。

打ち出した瞬間（$r = R$、速さ $v$）と、無限に遠ざかったとき（$r \to \infty$、速さ $v_\infty$）で力学的エネルギーは保存するので

$$
\frac{1}{2}mv^2 - \frac{GMm}{R} = \frac{1}{2}mv_\infty^2 - 0 .
$$

右辺は $v_\infty^2 \ge 0$ より $0$ 以上です。したがって物体が無限遠に到達できる条件は

$$
\frac{1}{2}mv^2 - \frac{GMm}{R} \ge 0 ,
\qquad\text{すなわち}\qquad
v^2 \ge \frac{2GM}{R} .
$$

等号のとき、つまり「無限遠にちょうど速さ $0$ で到達する」ときが最小値なので $v_{\text{esc}} = \sqrt{2GM/R}$ です。両辺に共通する $m$ が約分で消えたので、この値は打ち出す物体が羽根でも象でも同じになります。
</Proof>

<Example id="ex-escape-numbers" title="地球と太陽の脱出速度">
地球は $M = 5.97 \times 10^{24}\ \mathrm{kg}$、$R = 6.37 \times 10^{6}\ \mathrm{m}$ です。<Ref to="prop-escape-velocity" /> に入れると

$$
v_{\text{esc}} = \sqrt{\frac{2 \times 6.674\times10^{-11} \times 5.97\times10^{24}}{6.37\times10^{6}}}
= \sqrt{1.25\times10^{8}} = 1.12\times10^{4}\ \mathrm{m/s}
$$

で、秒速 11.2 km。ロケットの打ち上げでよく聞く「第二宇宙速度」です。

太陽は $M = 1.99 \times 10^{30}\ \mathrm{kg}$、$R = 6.96 \times 10^{8}\ \mathrm{m}$ なので

$$
v_{\text{esc}} = \sqrt{\frac{2 \times 6.674\times10^{-11} \times 1.99\times10^{30}}{6.96\times10^{8}}}
= \sqrt{3.81\times10^{11}} = 6.18\times10^{5}\ \mathrm{m/s}
$$

秒速 618 km です。光速の $0.2\ \%$ ほどですから、太陽の表面から出た光はまったく余裕で逃げていきます。
</Example>

## 3. 事象の地平面とシュワルツシルト半径

<Proposition id="prop-schwarzschild-radius" title="シュワルツシルト半径">
質量 $M$ の球対称な天体について、脱出速度が光速 $c = 2.998\times10^{8}\ \mathrm{m/s}$ にちょうど等しくなる半径は
$$
r_s = \frac{2GM}{c^2}
$$
で与えられる。これを**シュワルツシルト半径**という。天体の実際の半径が $r_s$ より小さいとき、その天体はブラックホールである。
</Proposition>

<Proof of="prop-schwarzschild-radius">
<Ref to="prop-escape-velocity" /> の $v_{\text{esc}} = \sqrt{2GM/R}$ で $v_{\text{esc}} = c$ と置きます。

$$
c = \sqrt{\frac{2GM}{R}}
\ \Longrightarrow\
c^2 = \frac{2GM}{R}
\ \Longrightarrow\
R = \frac{2GM}{c^2} .
$$

この $R$ を $r_s$ と書きます。$v_{\text{esc}} = \sqrt{2GM/R}$ は $R$ が小さいほど大きくなるので、天体の半径が $r_s$ を下回れば表面での脱出速度は $c$ を超えます。
</Proof>

<Remark id="rem-newton-coincidence">
いま使ったのは 18 世紀のニュートン力学だけです。にもかかわらず、一般相対性理論からシュワルツシルトが導いた事象の地平面の半径は、係数まで含めてぴったり $2GM/c^2$ になります。

これは幸運な一致で、証明ではありません。ニュートン流の計算では、光は「速さが落ちながら上昇し、いつか折り返す粒子」であって、地平面のすぐ外側に光が漂う領域があるはずです。相対論では光は常に $c$ で走り続け、それでも外向きに進めなくなります。式は同じでも、意味が違います。

なお、$r_s$ をあらかじめ知っていると計算が速くなります。太陽質量 $M_\odot = 1.99\times10^{30}\ \mathrm{kg}$ に対して $r_s = 2.95\ \mathrm{km}$、つまりおおよそ
$$
r_s \approx 3.0\ \mathrm{km} \times \frac{M}{M_\odot}
$$
と覚えておけば、たいていの天体は暗算できます。
</Remark>

<Definition id="def-event-horizon" title="事象の地平面">
ブラックホールの周囲で、そこから内側で起きた出来事の情報が二度と外部に届かなくなる境界面を**事象の地平面**という。回転も電荷もない球対称なブラックホールでは、それは中心から半径 $r_s = 2GM/c^2$ の球面である。

地平面は物質でできた面ではなく、時空の性質が変わる場所である。そこには壁も膜も標識もない。
</Definition>

「地平面」という比喩はよくできています。地球の地平線の向こう側で何が起きても、あなたには見えません。しかし歩いていけば地平線は先へ逃げていくし、地平線そのものにぶつかることはない。ブラックホールの地平面も同じで、通り過ぎる瞬間に「いま越えた」と分かる目印は何もありません。違うのは、越えたら二度と戻れないという一点です。

<Figure caption="ブラックホールに近づくにつれて、光が進める向きが内側に倒れていきます。事象の地平面では、外向きに放った光でさえその場に留まるのがやっとです。">
<svg viewBox="0 0 680 330" width="100%" role="img" aria-label="ブラックホール近傍で光の進める向きが内側に倒れていく様子の模式図">
  <defs>
    <marker id="bh-arrow" viewBox="0 0 10 10" refX="9" refY="5" markerWidth="6" markerHeight="6" orient="auto">
      <path d="M 0 0 L 10 5 L 0 10 z" fill="currentColor" />
    </marker>
  </defs>
  <rect x="45" y="60" width="140" height="195" fill="currentColor" opacity="0.08" />
  <path d="M45 62 L53 82 L37 102 L53 122 L37 142 L53 162 L37 182 L53 202 L37 222 L45 250" fill="none" stroke="var(--sl-color-accent)" stroke-width="2.5" />
  <text x="18" y="48" font-size="14" fill="currentColor">特異点</text>
  <line x1="185" y1="60" x2="185" y2="255" stroke="var(--sl-color-accent)" stroke-width="2.5" stroke-dasharray="7 5" />
  <text x="195" y="48" font-size="14" fill="var(--sl-color-accent)" text-anchor="middle">事象の地平面</text>
  <g stroke="currentColor" stroke-width="2" fill="none" marker-end="url(#bh-arrow)">
    <line x1="105" y1="215" x2="91" y2="172" />
    <line x1="105" y1="215" x2="63" y2="200" />
    <line x1="185" y1="215" x2="185" y2="170" />
    <line x1="185" y1="215" x2="143" y2="205" />
    <line x1="300" y1="215" x2="310" y2="171" />
    <line x1="300" y1="215" x2="258" y2="199" />
    <line x1="430" y1="215" x2="456" y2="178" />
    <line x1="430" y1="215" x2="394" y2="188" />
    <line x1="570" y1="215" x2="602" y2="183" />
    <line x1="570" y1="215" x2="538" y2="183" />
    <line x1="645" y1="255" x2="645" y2="70" />
  </g>
  <g fill="currentColor" font-size="13" text-anchor="middle">
    <text x="645" y="58">時間</text>
    <text x="115" y="280">内側</text>
    <text x="435" y="280">外の世界</text>
    <text x="340" y="308">横軸 = 中心からの距離</text>
  </g>
</svg>
</Figure>

<Example id="ex-radius-numbers" title="太陽・地球・あなたのシュワルツシルト半径">
<Ref to="prop-schwarzschild-radius" /> にそれぞれの質量を入れます。

| 天体 | 質量 $M$ | $r_s = 2GM/c^2$ | 実際の半径 |
|---|---|---|---|
| 太陽 | $1.99\times10^{30}\ \mathrm{kg}$ | $2.95\ \mathrm{km}$ | $6.96\times10^{5}\ \mathrm{km}$ |
| 地球 | $5.97\times10^{24}\ \mathrm{kg}$ | $8.9\ \mathrm{mm}$ | $6.37\times10^{3}\ \mathrm{km}$ |
| 体重 60 kg の人 | $60\ \mathrm{kg}$ | $8.9\times10^{-26}\ \mathrm{m}$ | $0.2\ \mathrm{m}$ 程度 |
| いて座 A\* | $4.3\times10^{6}\,M_\odot$ | $1.3\times10^{7}\ \mathrm{km}$ | — |
| M87\* | $6.5\times10^{9}\,M_\odot$ | $1.9\times10^{10}\ \mathrm{km}$ | — |

人の行を確かめておきます。
$$
r_s = \frac{2 \times 6.674\times10^{-11} \times 60}{(2.998\times10^{8})^2}
= \frac{8.01\times10^{-9}}{8.99\times10^{16}}
= 8.9\times10^{-26}\ \mathrm{m} .
$$
陽子の直径がおよそ $1.7\times10^{-15}\ \mathrm{m}$ ですから、この $r_s$ は陽子の 100 億分の 1 よりさらに小さい。あなたをブラックホールにするには、それだけ徹底的に押し縮める必要があります。日常で心配する話ではありません。

いっぽう銀河中心の巨大ブラックホールは桁が違います。M87\* の $r_s = 1.9\times10^{10}\ \mathrm{km}$ は $130$ 天文単位、海王星の軌道半径（$30$ 天文単位）の 4 倍以上です。太陽系がまるごと事象の地平面の内側に収まります。
</Example>

ここで、多くの人が誤解している点をはっきりさせておきます。ブラックホールは「無限に密度が高い」わけではありません。

<Proposition id="prop-mean-density" title="ブラックホールの平均密度">
質量 $M$ のブラックホールについて、事象の地平面の内側の体積を $V = \frac{4}{3}\pi r_s^3$ と定義し、平均密度を $\rho = M/V$ とすると
$$
\rho = \frac{3c^6}{32\pi G^3 M^2}
$$
となる。すなわち平均密度は質量の 2 乗に**反比例**する。重いブラックホールほどスカスカである。
</Proposition>

<Proof of="prop-mean-density">
<Ref to="prop-schwarzschild-radius" /> より $r_s = 2GM/c^2$ なので

$$
r_s^3 = \frac{8G^3M^3}{c^6},
\qquad
V = \frac{4}{3}\pi r_s^3 = \frac{32\pi G^3 M^3}{3c^6} .
$$

したがって

$$
\rho = \frac{M}{V} = M \cdot \frac{3c^6}{32\pi G^3 M^3} = \frac{3c^6}{32\pi G^3 M^2} .
$$

分母に $M^2$ があるので、$M$ が 10 倍になると $\rho$ は 100 分の 1 になります。理由は単純で、$r_s$ が $M$ に比例する以上、体積は $M^3$ に比例して増えるからです。質量は $M$ にしか比例しないので、割り算すると $M^2$ の分だけ薄まります。
</Proof>

<Example id="ex-density-numbers" title="M87* は空気より軽い">
<Ref to="prop-mean-density" /> に数値を入れます。まず太陽質量の場合、$r_s = 2953\ \mathrm{m}$ なので

$$
V = \frac{4}{3}\pi (2953)^3 = 1.08\times10^{11}\ \mathrm{m^3},
\qquad
\rho = \frac{1.99\times10^{30}}{1.08\times10^{11}} = 1.8\times10^{19}\ \mathrm{kg/m^3} .
$$

原子核の密度が $2.3\times10^{17}\ \mathrm{kg/m^3}$ ですから、その 80 倍。これは確かに途方もない密度です。

ところが <Ref to="prop-mean-density" /> により、質量が $M_\odot$ の $N$ 倍になれば密度は $N^2$ 分の 1 になります。M87\* は $N = 6.5\times10^{9}$ なので

$$
\rho = \frac{1.8\times10^{19}}{(6.5\times10^{9})^2} = \frac{1.8\times10^{19}}{4.2\times10^{19}} = 0.44\ \mathrm{kg/m^3} .
$$

地上の空気の密度は $1.2\ \mathrm{kg/m^3}$ です。M87\* の平均密度は**空気の 3 分の 1 ほど**しかありません。もし宇宙服なしで M87\* の地平面付近を漂えたとしたら、あなたのまわりは真空に近い、ごくありふれた空間です。ブラックホールを「潰れた物質の塊」と考えるのは正しくありません。ブラックホールとは、物質そのものではなく、**そこから出られないという時空の性質**のことなのです。
</Example>

<Aside type="tip">
$\rho \propto 1/M^2$ が意味することはもう一つあります。宇宙全体の平均密度（およそ $10^{-26}\ \mathrm{kg/m^3}$、<Ref to="physics/cosmology/dark-matter-and-dark-energy#def-critical-density" text="臨界密度" /> の程度）を持つブラックホールの質量を計算すると、観測可能な宇宙の質量と同じ程度になります。だから「宇宙全体が実は巨大なブラックホールの内側なのでは」という話が出てくるのですが、膨張する宇宙とブラックホールでは時空の形が違うので、この一致だけで結論は出せません。宇宙の大きさと年齢については [宇宙の果てと年齢](/physics/cosmology/age-and-size-of-the-universe)、とくに <Ref to="physics/cosmology/age-and-size-of-the-universe#def-particle-horizon" text="粒子的地平線の定義" /> を参照してください。
</Aside>

## 4. 落ちたらどうなるか — 潮汐力とスパゲッティ化

さて、いちばん人気のある質問に進みます。ブラックホールに落ちたらどうなるのか。

危険なのは重力の強さそのものではありません。強い重力のなかを自由落下しているあいだ、あなたは無重力状態です。国際宇宙ステーションの飛行士が浮いていられるのと同じ理屈で、あなたも周囲の空気も足元の靴も、全員が同じように落ちているので、押しつぶされる感覚はありません。

問題は、**あなたの足と頭が同じようには落ちない**ことです。足のほうが中心に少し近いので、少しだけ強く引かれる。この差が体を縦に引き伸ばします。潮の満ち引きを起こすのと同じ仕組みなので、**潮汐力**と呼ばれます。

<Proposition id="prop-tidal" title="潮汐加速度">
質量 $M$ の天体の中心から距離 $r$ の位置に、身長 $h$ の人が足を中心側に向けて自由落下しているとする。$h \ll r$ のとき、足にかかる重力加速度と頭にかかる重力加速度の差 $\Delta g$ は
$$
\Delta g \simeq \frac{2GMh}{r^3}
$$
で与えられる。特に事象の地平面上（$r = r_s = 2GM/c^2$）では
$$
\Delta g \simeq \frac{h\,c^6}{4G^2M^2}
$$
となり、質量の 2 乗に反比例する。
</Proposition>

<Proof of="prop-tidal">
中心から距離 $r$ での重力加速度は $g(r) = GM/r^2$ です。足が $r$、頭が $r + h$ にあるので

$$
\Delta g = g(r) - g(r+h) = \frac{GM}{r^2} - \frac{GM}{(r+h)^2} .
$$

第 2 項を $r$ でくくります。$x = h/r$ と置くと

$$
\frac{GM}{(r+h)^2} = \frac{GM}{r^2}\cdot\frac{1}{(1+x)^2} .
$$

ここで $x$ は小さい（身長は落下距離に比べてはるかに短い）ので、$x^2$ 以上を捨てる近似をします。まず $(1+x)^2 = 1 + 2x + x^2 \simeq 1 + 2x$。次に $(1+2x)(1-2x) = 1 - 4x^2 \simeq 1$ なので $\dfrac{1}{1+2x} \simeq 1 - 2x$。あわせて

$$
\frac{1}{(1+x)^2} \simeq 1 - 2x = 1 - \frac{2h}{r} .
$$

したがって

$$
\Delta g \simeq \frac{GM}{r^2} - \frac{GM}{r^2}\left(1 - \frac{2h}{r}\right) = \frac{GM}{r^2}\cdot\frac{2h}{r} = \frac{2GMh}{r^3} .
$$

後半は $r = r_s = 2GM/c^2$ を代入するだけです。<Ref to="prop-schwarzschild-radius" /> より $r_s^3 = 8G^3M^3/c^6$ なので

$$
\Delta g \simeq \frac{2GMh}{r_s^3} = 2GMh \cdot \frac{c^6}{8G^3M^3} = \frac{h\,c^6}{4G^2M^2} .
$$

分母に $M^2$ が現れました。<Ref to="prop-mean-density" /> のときと同じ構造です。$M$ が大きいほど地平面が遠くにあり、そこでの重力の勾配はゆるやかになります。
</Proof>

<Example id="ex-spaghetti" title="スパゲッティ化はいつ始まるか">
身長 $h = 1.8\ \mathrm{m}$ の人が、事象の地平面をまたいだ瞬間に感じる潮汐加速度を <Ref to="prop-tidal" /> で計算します。

**太陽質量のブラックホール**（$M = 1.99\times10^{30}\ \mathrm{kg}$、$r_s = 3.0\ \mathrm{km}$）:

$$
\Delta g \simeq \frac{1.8 \times (2.998\times10^{8})^6}{4 \times (6.674\times10^{-11})^2 \times (1.99\times10^{30})^2}
= \frac{1.31\times10^{51}}{7.05\times10^{40}}
= 1.9\times10^{10}\ \mathrm{m/s^2} .
$$

重力加速度 $g = 9.8\ \mathrm{m/s^2}$ で割ると、およそ $2\times10^{9}\,g$。頭と足で 20 億 $g$ の差です。人体が耐えられるのはせいぜい数十 $g$ ですから、地平面に届くはるか手前で、あなたは細く長く引き伸ばされます。この現象を、物理学者は真顔で**スパゲッティ化**と呼びます。

**M87\***（$M = 6.5\times10^{9}\,M_\odot$）: <Ref to="prop-tidal" /> の $\Delta g \propto 1/M^2$ より、上の値を $(6.5\times10^{9})^2 = 4.2\times10^{19}$ で割って

$$
\Delta g \simeq \frac{1.9\times10^{10}}{4.2\times10^{19}} = 4.5\times10^{-10}\ \mathrm{m/s^2} .
$$

$10^{-11}\,g$ です。感じられるはずがありません。**M87\* の事象の地平面は、何の予告もなく、まったく静かに通過できます。**

境目はどこでしょうか。$\Delta g$ が $100\,g \simeq 10^{3}\ \mathrm{m/s^2}$ になる質量を求めると

$$
M^2 = \frac{1.8 \times (2.998\times10^{8})^6}{4 \times (6.674\times10^{-11})^2 \times 10^{3}}
= 7.3\times10^{67},
\qquad
M = 8.6\times10^{33}\ \mathrm{kg} \simeq 4\times10^{3}\,M_\odot .
$$

つまり、太陽質量の数千倍より重いブラックホールなら、地平面を越える時点では体は無事です。もちろん、そのあと中心に近づけば $\Delta g \propto 1/r^3$ で急激に増えますから、猶予があるだけの話ですが。
</Example>

<Remark id="rem-proper-time">
**では、地平面を越えてから残された時間はどれくらいでしょうか。** 一般相対性理論によれば、事象の地平面の内側では、どんな運動をしても中心の特異点に到達するまでの固有時（本人の腕時計で測った時間）に上限があります。その最大値は

$$
\tau_{\max} = \frac{\pi GM}{c^3}
$$

です。$GM_\odot/c^3 = 4.93\times10^{-6}\ \mathrm{s}$ なので $\tau_{\max} = 1.55\times10^{-5}\ \mathrm{s} \times (M/M_\odot)$。数値にすると

| ブラックホール | 質量 | $\tau_{\max}$ |
|---|---|---|
| 恒星質量 | $1\,M_\odot$ | $1.5\times10^{-5}$ 秒 |
| いて座 A\* | $4.3\times10^{6}\,M_\odot$ | 約 67 秒 |
| M87\* | $6.5\times10^{9}\,M_\odot$ | 約 28 時間 |

M87\* なら、地平面を越えてから丸一日以上あります。抵抗するのは逆効果で、エンジンを噴かして踏ん張ろうとするほど固有時は短くなります。何もせずに落ちるのが、いちばん長生きする方法です。
</Remark>

<Remark id="rem-frozen-star">
外から見ている人には、まったく違う光景が見えます。落ちていく人が発する光は、地平面に近づくほど強く赤方偏移し、届く間隔も伸びていきます。遠方の観測者が受け取る振動数は元の $\sqrt{1 - r_s/r}$ 倍になるので、$r \to r_s$ では $0$ に近づきます。

よく「外から見ると落下者は地平面で永遠に静止して見える」と言われますが、正確ではありません。光は暗く、赤くなりながら**指数関数的に急速に消えていきます**。減光の時定数は $r_s/c$ 程度で、太陽質量なら $10^{-5}$ 秒のオーダーです。つまり実際には「凍りつく」のではなく、一瞬でフッと消えます。ソ連の物理学者たちがブラックホールを「凍結星（フローズン・スター）」と呼んでいた時代の名残の表現です。

同じ出来事について、落ちる本人は「何事もなく通過した」と言い、外の観測者は「地平面に届く前に見えなくなった」と言う。どちらも嘘をついていません。時間の進み方が二人で違うからです。
</Remark>

## 5. ブラックホールは蒸発する — ホーキング放射

ここまでの話では、ブラックホールは完全に黒く、何も出さず、飲み込む一方です。ところが 1970 年代、そこに深刻な理論上の困りごとが見つかりました。

熱力学の第二法則は「エントロピー（乱雑さ）は減らない」と言います。では、熱いコーヒーをブラックホールに投げ込んだらどうなるでしょう。コーヒーのエントロピーは宇宙から消えてしまいます。ブラックホールの外の宇宙のエントロピーは減った。第二法則が破れたことになります。

1972 年、大学院生だったヤコブ・ベケンシュタインは、この矛盾を避けるにはブラックホール自身がエントロピーを持つと考えるしかない、と主張しました。しかもその値は**事象の地平面の面積に比例する**というのです。しかし、エントロピーがあるなら温度もあるはずで、温度があるものは熱を放射するはずです。黒いはずのブラックホールが光る。これはおかしい、と当初は多くの研究者が考えました。

1974 年、スティーヴン・ホーキングが計算をやり直して、**ブラックホールは本当に光る**と結論しました。量子力学では真空は空っぽではなく、粒子と反粒子の対が絶えず生まれては消えています。事象の地平面のすぐ近くでこれが起きると、片方が内側に落ち、片方が外へ逃げることがある。外から見ればブラックホールが粒子を放出したように見え、その分だけブラックホールの質量は減ります。

<Aside type="caution">
この「対生成した片割れが逃げる」という説明は、ホーキング本人が一般向けに使った比喩ですが、実際の計算はもっと微妙です。粒子の数は観測者の運動状態によって変わるという量子場の理論の性質が本質で、放射は地平面上の一点で起きるのではなく、地平面のまわりの広い領域から染み出してきます。比喩は入口としては便利ですが、それ以上を求めないほうがよいでしょう。
</Aside>

<Definition id="def-hawking-temperature" title="ホーキング温度">
質量 $M$ のシュワルツシルト・ブラックホールは、絶対温度
$$
T_H = \frac{\hbar c^3}{8\pi G M k_B}
$$
の <Ref to="physics/cosmology/big-bang-evidence#def-blackbody" text="黒体" /> とまったく同じスペクトルの熱放射を放つ。ここで $\hbar = 1.055\times10^{-34}\ \mathrm{J\,s}$ は換算プランク定数、$k_B = 1.381\times10^{-23}\ \mathrm{J/K}$ はボルツマン定数である。この放射を**ホーキング放射**という。

数値を代入すると $T_H = 1.23\times10^{23}\ \mathrm{K} / (M/\mathrm{kg})$、すなわち温度は質量に反比例する。
</Definition>

<Example id="ex-hawking-cold" title="太陽質量ブラックホールは宇宙で最も冷たい">
<Ref to="def-hawking-temperature" /> に $M = 1.99\times10^{30}\ \mathrm{kg}$ を入れます。

$$
T_H = \frac{1.23\times10^{23}}{1.99\times10^{30}} = 6.2\times10^{-8}\ \mathrm{K} .
$$

$1$ 億分の $6$ ケルビン。いっぽう宇宙全体は宇宙マイクロ波背景放射で満たされていて、その温度は $2.725\ \mathrm{K}$ です（[ビッグバンは本当にあったのか？](/physics/cosmology/big-bang-evidence) の <Ref to="physics/cosmology/big-bang-evidence#ex-cmb-peak" /> を参照してください）。比を取ると

$$
\frac{2.725}{6.2\times10^{-8}} = 4.4\times10^{7} .
$$

宇宙の背景放射のほうが 4400 万倍も熱い。したがって恒星質量のブラックホールは、放射で失う分よりはるかに多くのエネルギーを背景放射から吸収しています。**いまの宇宙では、太陽質量のブラックホールは蒸発するどころか太っています。**

蒸発が吸収に勝つ条件は $T_H > 2.725\ \mathrm{K}$、すなわち

$$
M < \frac{1.23\times10^{23}}{2.725} = 4.5\times10^{22}\ \mathrm{kg} .
$$

月の質量が $7.35\times10^{22}\ \mathrm{kg}$ ですから、**月よりやや軽いブラックホールなら、いまこの瞬間も正味で痩せています**。宇宙が膨張して背景放射がさらに冷えれば、この境目の質量は上がっていきます。
</Example>

<Proposition id="prop-evaporation" title="蒸発時間は質量の 3 乗に比例する">
周囲から何も吸収しないブラックホールがホーキング放射だけで質量を失うとき、その質量が $M_0$ から $0$ になるまでの時間 $t_{\text{ev}}$ は
$$
t_{\text{ev}} \propto M_0^{\,3}
$$
を満たす。比例係数まで込めると $t_{\text{ev}} = \dfrac{5120\,\pi G^2 M_0^{\,3}}{\hbar c^4}$ である。
</Proposition>

<Proof of="prop-evaporation">
まず放射のパワーを見積もります。<Ref to="def-hawking-temperature" /> のブラックホールは黒体なので、シュテファン=ボルツマンの法則より、単位時間に放出するエネルギー $P$ は表面積 $A$ と温度の 4 乗の積に比例します。

- 表面積は $A = 4\pi r_s^2$ で、<Ref to="prop-schwarzschild-radius" /> より $r_s \propto M$ なので $A \propto M^2$。
- 温度は <Ref to="def-hawking-temperature" /> より $T_H \propto 1/M$ なので $T_H^4 \propto 1/M^4$。

したがって

$$
P \propto A\,T_H^4 \propto M^2 \cdot \frac{1}{M^4} = \frac{1}{M^2} .
$$

放出したエネルギーの分だけ質量が減ります（$E = Mc^2$）。1 秒あたりの質量の減り方を $\dfrac{dM}{dt}$ と書くと

$$
\frac{dM}{dt} = -\frac{P}{c^2} = -\frac{k}{M^2}
$$

となる正の定数 $k$ があります。両辺に $M^2$ を掛けると $M^2 \dfrac{dM}{dt} = -k$ です。ここで $M^3$ の変化率を考えると、合成関数の微分から

$$
\frac{d(M^3)}{dt} = 3M^2 \frac{dM}{dt} = -3k .
$$

右辺は定数ですから、$M^3$ は時間とともに**一定の割合でまっすぐ減っていきます**。$t = 0$ で $M = M_0$ とすれば

$$
M(t)^3 = M_0^{\,3} - 3kt .
$$

これが $0$ になる時刻が蒸発の完了時刻なので

$$
t_{\text{ev}} = \frac{M_0^{\,3}}{3k} \propto M_0^{\,3} .
$$

比例定数 $k$ をシュテファン=ボルツマン定数と <Ref to="def-hawking-temperature" /> から具体的に書き下すと、主張の式が得られます。
</Proof>

<Example id="ex-evaporation-numbers" title="太陽質量ブラックホールの寿命">
<Ref to="prop-evaporation" /> の式に $M_0 = 1.99\times10^{30}\ \mathrm{kg}$ を代入します。

$$
t_{\text{ev}} = \frac{5120\pi \times (6.674\times10^{-11})^2 \times (1.99\times10^{30})^3}{1.055\times10^{-34} \times (2.998\times10^{8})^4}
= \frac{5.64\times10^{74}}{0.852}
= 6.6\times10^{74}\ \mathrm{s} .
$$

年に直すと $2.1\times10^{67}$ 年です。宇宙の年齢 $1.38\times10^{10}$ 年（<Ref to="physics/cosmology/age-and-size-of-the-universe#ex-lcdm-number" />）と比べると、$10^{57}$ 倍。実質的には永遠と言ってよい長さです。

そして <Ref to="prop-evaporation" /> の $t_{\text{ev}} \propto M_0^3$ が効いてきます。M87\* は太陽の $6.5\times10^{9}$ 倍の質量なので、寿命はその 3 乗倍、$2.7\times10^{29}$ 倍の $6\times10^{96}$ 年になります。

逆に軽ければあっという間です。質量 $1.7\times10^{11}\ \mathrm{kg}$（一辺 $400\ \mathrm{m}$ の岩の塊ほど）のブラックホールの寿命は

$$
t_{\text{ev}} = 2.1\times10^{67} \times \left(\frac{1.7\times10^{11}}{1.99\times10^{30}}\right)^3 = 2.1\times10^{67} \times 6.2\times10^{-58} = 1.3\times10^{10}\ \mathrm{年}
$$

で、ちょうど宇宙の年齢と同じくらい。この質量のブラックホールがビッグバン直後に作られていたなら、いまこの瞬間に最後の蒸発を迎えているはずです。ちなみにその $r_s$ は $2.5\times10^{-16}\ \mathrm{m}$、陽子より小さい。山ひとつ分の質量が、陽子より小さな領域に入っているわけです。こうした**原始ブラックホール**は理論上ありうるものとして探されていますが、確実な検出はまだありません。
</Example>

<Figure caption="蒸発は加速します。質量が減るほど温度が上がり、温度が上がるほど放射が強まる正のフィードバックです。">
<Mermaid code={`flowchart LR
  A["質量が減る"] --> B["温度が上がる"]
  B --> C["放射が強くなる"]
  C --> A
  C --> D["最後は爆発的に蒸発"]`} />
</Figure>

<Remark id="rem-information-paradox">
ホーキング放射には厄介な副作用があります。放射のスペクトルは温度だけで決まる完全な熱放射で、飲み込まれた物質が何だったのかという情報をいっさい含みません。すると、ブラックホールが完全に蒸発しきったあと、落ちた本の中身はどこへ行ったのか、という問題が残ります。量子力学は「情報は失われない」と要求するので、これは理論どうしの衝突です。**ブラックホール情報パラドックス**と呼ばれます。

ホーキング自身は当初「情報は本当に失われる」側に立ち、1997 年にはそれを賭けの対象にしましたが、2004 年に負けを認めました。近年の量子重力の計算（いわゆるページ曲線の再現）は、情報が放射のなかに符号化されて出てくる側を支持しています。ただし「どのように」出てくるのかは決着していません。ここは現代物理学の最前線です。
</Remark>

## 6. ワームホール — 抜け道はあるのか

SF がブラックホールを愛するのは、その先に出口があるかもしれないからです。この期待には、実はきちんとした理論的な根拠があります。

1935 年、アインシュタインとネイサン・ローゼンは、シュワルツシルト解を数学的に最後まで延長すると、二つの離れた領域を細い「のど」でつなぐ構造が現れることに気づきました。**アインシュタイン=ローゼン橋**、いわゆるワームホールです。方程式の解として、これは確かに存在します。

問題は、そこを通れるかどうかです。

<Theorem id="thm-er-bridge" title="シュワルツシルト・ワームホールは通り抜けられない">
真空のアインシュタイン方程式のシュワルツシルト解を最大限に拡張した時空（クルスカル拡張）には、二つの外部領域をつなぐアインシュタイン=ローゼン橋が存在する。しかしこの「のど」は時間とともに生成・膨張・収縮・消滅し、その寿命は光信号が通過するのに要する時間より短い。したがって、いかなる物体も、光でさえも、一方の外部領域から橋を通ってもう一方の外部領域に到達することはできない。
</Theorem>

<Remark id="rem-er-bridge-proof">
<Ref to="thm-er-bridge" /> の証明は、クルスカル座標で時空全体を描き、光の軌跡（$45$ 度の直線）が二つの外部領域を結べないことを確かめるものです。ロバート・フラーとジョン・ホイーラーが 1962 年の論文 "Causality and Multiply Connected Space-Time" (*Physical Review* **128**, 919) で与えました。詳細は参考文献のミスナー・ソーン・ホイーラー『Gravitation』第 31 章にあります。

直感的な言い方をすれば、のどが潰れる速さが光速より速いのです。トンネルはあるけれど、走り抜ける前に閉じてしまう。
</Remark>

では、閉じないワームホールを作れないのでしょうか。1988 年、マイケル・モリスとキップ・ソーンは、カール・セーガンの小説『コンタクト』の設定について相談を受けたのをきっかけに、この問題を正面から扱いました。彼らの結論はこうです。

**のどを開いたまま保つには、負のエネルギー密度をもつ物質が必要である。** 理由は光の振る舞いから分かります。ワームホールを通り抜ける光線は、入口では収束し、出口では発散していなければなりません。ところが普通の物質の重力は、光線を必ず収束させる方向にしか働きません。途中でいったん発散に転じさせるには、重力が反発として働く必要がある。それが「負のエネルギー密度」の意味です。

そんな物質はあるのでしょうか。完全にないわけではありません。量子論では、2 枚の金属板を極めて近づけると板のあいだの真空のエネルギー密度が負になります（カシミール効果、1948 年に予言され 1990 年代に測定されました）。しかし、その大きさは信じられないほど小さい。人が通れる大きさのワームホールを支えるには、地球や太陽の質量に匹敵する量の負エネルギーが必要になると見積もられています。カシミール効果でそれを集めるのは、コップ 1 杯の水で海を満たすようなものです。

<Remark id="rem-traversable-recent">
2017 年以降、ガオ・ジャフェリス・ウォールらによって、量子効果を使って本当に通過可能なワームホールを作る理論模型が提案されています。ただし、それらのワームホールを通る所要時間は、外側の普通の空間を通る時間より必ず長くなります。つまり「近道」にはならない。因果律は守られています。

ワームホールが実在するとしても、ワープ航法にはならないという点は、現在の理論からかなり強く示唆されています。SF の設定としては残念ですが、物理としてはむしろ健全です。
</Remark>

ホワイトホール（何も入れず、出てくる一方の天体）も方程式の解としては存在します。しかしこれは、ブラックホールの時間を逆向きにしたものです。壊れたコップが元に戻る映像が現実に起きないのと同じ理由で、熱力学第二法則に反する初期条件が必要になり、自然にできるとは考えられていません。

## 7. 本当にあるのか — 観測が語ること

ここまで理論の話をしてきましたが、ブラックホールが実在するという証拠は、この 10 年で決定的になりました。

第一に、**重力波**です。2015 年 9 月 14 日、アメリカの LIGO が、太陽の 36 倍と 29 倍の質量をもつ二つの天体が合体して 62 倍の天体になる際の時空のさざ波をとらえました。差の 3 太陽質量分のエネルギーが、$0.2$ 秒たらずのあいだに重力波として放出されたことになります。太陽質量の数十倍の天体が数百 km まで近づいて合体できる以上、それは中性子星でも恒星でもありえません。この観測を実現した業績に 2017 年のノーベル物理学賞が贈られました。

第二に、**銀河中心の星の軌道**です。ラインハルト・ゲンツェルとアンドレア・ゲズのグループは、天の川銀河の中心付近の星を数十年にわたって追跡し、太陽系よりずっと狭い領域を周回していることを示しました。ケプラーの法則（<Ref to="physics/cosmology/dark-matter-and-dark-energy#prop-kepler-rotation" text="ケプラー回転" />）からその中心の質量は太陽の $430$ 万倍と求まります。この業績とロジャー・ペンローズの特異点定理に対して、2020 年のノーベル物理学賞が贈られました。

第三に、**直接撮像**です。2019 年 4 月、事象の地平面望遠鏡（EHT）が M87 銀河の中心の「影」の画像を公開しました。2022 年には天の川銀河中心のいて座 A\* も撮像されています。

<Example id="ex-shadow-size" title="M87* の影は、なぜ 42 マイクロ秒角なのか">
一般相対性理論によれば、ブラックホールの「影」の半径は $r_s$ そのものではありません。すぐそばを通る光が曲げられて吸い込まれるため、影は少し大きく

$$
b_{\text{crit}} = 3\sqrt{3}\,\frac{GM}{c^2} = \frac{3\sqrt{3}}{2}\,r_s \simeq 2.6\,r_s
$$

になります。<Ref to="ex-radius-numbers" /> の M87\* の値 $r_s = 1.9\times10^{10}\ \mathrm{km}$ を使うと、影の直径は

$$
D = 2 \times 2.6 \times 1.9\times10^{10} = 9.9\times10^{10}\ \mathrm{km} .
$$

M87 までの距離は $1680$ 万パーセク、すなわち $5.2\times10^{20}\ \mathrm{km}$ です（パーセクという単位は <Ref to="physics/cosmology/cosmic-distance-ladder#def-parallax" /> で決められています。この距離をどうやって測るかは [なぜ星までの距離がわかるのか？](/physics/cosmology/cosmic-distance-ladder) の <Ref to="physics/cosmology/cosmic-distance-ladder#prop-cepheid-distance" /> を見てください）。見込む角度は

$$
\theta = \frac{D}{d} = \frac{9.9\times10^{10}}{5.2\times10^{20}} = 1.9\times10^{-10}\ \mathrm{rad} .
$$

$1$ ラジアン $= 2.06\times10^{11}$ マイクロ秒角なので

$$
\theta = 1.9\times10^{-10} \times 2.06\times10^{11} = 40\ \text{マイクロ秒角} .
$$

EHT が実際に測ったリングの直径は $42 \pm 3$ マイクロ秒角でした。質量と距離という独立な観測から予言した値と、画像から読み取った値が一致したのです。

ちなみに $40$ マイクロ秒角がどれほど小さいかというと、月面に置いた直径 $7.5\ \mathrm{cm}$ のドーナツを地球から見込む角度に相当します。これを撮るために、地球上の 8 台の電波望遠鏡を同時に動かし、地球サイズの一つの望遠鏡として合成しました。
</Example>

まだ分かっていないこともあります。中心の特異点が本当に存在するのか（ペンローズの定理は一般相対性理論が正しい範囲でそれを保証しますが、その理論自身が特異点の近くで破綻します）、情報パラドックスがどう解決されるのか、そして最初期の宇宙に原始ブラックホールが作られたのか。最後の点は[ダークマターとダークエネルギー](/physics/cosmology/dark-matter-and-dark-energy)、すなわち <Ref to="physics/cosmology/dark-matter-and-dark-energy#def-dark-matter" /> の候補としても議論されています。

## 8. 演習

<Exercise id="exr-earth-radius" difficulty="易">
地球（質量 $5.97\times10^{24}\ \mathrm{kg}$）を質量を変えずに押し縮めてブラックホールにするには、半径を何 mm 以下にすればよいか。<Ref to="prop-schwarzschild-radius" /> を使って求めよ。また、そのときの平均密度を <Ref to="prop-mean-density" /> の考え方で求め、原子核の密度 $2.3\times10^{17}\ \mathrm{kg/m^3}$ と比べよ。

<Solution>
<Ref to="prop-schwarzschild-radius" /> より

$$
r_s = \frac{2GM}{c^2} = \frac{2 \times 6.674\times10^{-11} \times 5.97\times10^{24}}{(2.998\times10^{8})^2}
= \frac{7.97\times10^{14}}{8.99\times10^{16}} = 8.9\times10^{-3}\ \mathrm{m} .
$$

$8.9\ \mathrm{mm}$、ビー玉ほどの大きさです。

平均密度は

$$
V = \frac{4}{3}\pi (8.9\times10^{-3})^3 = 2.95\times10^{-6}\ \mathrm{m^3},
\qquad
\rho = \frac{5.97\times10^{24}}{2.95\times10^{-6}} = 2.0\times10^{30}\ \mathrm{kg/m^3} .
$$

原子核の密度の $10^{13}$ 倍です。<Ref to="prop-mean-density" /> の $\rho \propto 1/M^2$ どおり、軽いブラックホールほど密度が高くなっています。太陽質量なら <Ref to="ex-density-numbers" /> のとおり $1.8\times10^{19}\ \mathrm{kg/m^3}$ でしたから、質量比 $(1.99\times10^{30}/5.97\times10^{24})^2 = 1.1\times10^{11}$ 倍だけ地球のほうが密度が高い、と検算できます。
</Solution>
</Exercise>

<Exercise id="exr-water-density" difficulty="標準">
平均密度が水と同じ $1.0\times10^{3}\ \mathrm{kg/m^3}$ になるブラックホールの質量を、太陽質量を単位として求めよ。その質量は、いて座 A\*（$4.3\times10^{6}\,M_\odot$）と M87\*（$6.5\times10^{9}\,M_\odot$）のあいだにあるか。

<Solution>
<Ref to="ex-density-numbers" /> で求めたように、太陽質量のブラックホールの平均密度は $\rho_\odot = 1.8\times10^{19}\ \mathrm{kg/m^3}$ です。<Ref to="prop-mean-density" /> より $\rho \propto 1/M^2$ なので、質量が $M = N M_\odot$ のとき

$$
\rho = \frac{1.8\times10^{19}}{N^2}\ \mathrm{kg/m^3} .
$$

これが $1.0\times10^{3}$ に等しいとして

$$
N^2 = \frac{1.8\times10^{19}}{1.0\times10^{3}} = 1.8\times10^{16},
\qquad
N = 1.3\times10^{8} .
$$

太陽質量の約 $1.3$ 億倍です。いて座 A\* の $4.3\times10^{6}$ より大きく、M87\* の $6.5\times10^{9}$ より小さいので、確かに両者のあいだにあります。実際、いて座 A\* の平均密度は $1.8\times10^{19}/(4.3\times10^{6})^2 = 1.0\times10^{6}\ \mathrm{kg/m^3}$（水の 1000 倍）、M87\* は <Ref to="ex-density-numbers" /> のとおり $0.44\ \mathrm{kg/m^3}$（空気より薄い）です。
</Solution>
</Exercise>

<Exercise id="exr-proper-time" difficulty="標準">
いて座 A\*（$4.3\times10^{6}\,M_\odot$）の事象の地平面を越えた探査機に残された固有時の最大値 $\tau_{\max} = \pi GM/c^3$ を秒単位で求めよ。また、その時間に光が真空中を進む距離を求め、いて座 A\* のシュワルツシルト半径と比べよ。

<Solution>
<Ref to="rem-proper-time" /> のとおり $GM_\odot/c^3 = 4.93\times10^{-6}\ \mathrm{s}$ です。したがって

$$
\tau_{\max} = \pi \times 4.93\times10^{-6} \times 4.3\times10^{6} = 3.1416 \times 21.2 = 66.6\ \mathrm{s} .
$$

約 $67$ 秒、1 分ちょっとです。

この時間に光が進む距離は

$$
c\,\tau_{\max} = 2.998\times10^{8} \times 66.6 = 2.0\times10^{10}\ \mathrm{m} = 2.0\times10^{7}\ \mathrm{km} .
$$

いて座 A\* のシュワルツシルト半径は <Ref to="ex-radius-numbers" /> より $1.3\times10^{7}\ \mathrm{km}$ ですから、その約 $1.6$ 倍です。$\tau_{\max} = \pi GM/c^3 = (\pi/2)(r_s/c)$ という関係があるので、比は必ず $\pi/2 = 1.57$ になります。地平面の内側を横断するのに、光が半径分を走る程度の時間しかかからない、と覚えておくとよいでしょう。
</Solution>
</Exercise>

<Exercise id="exr-primordial" difficulty="難">
ビッグバン直後に作られたブラックホールが、宇宙年齢 $1.38\times10^{10}$ 年をかけてちょうどいま蒸発しきるとする。その初期質量を求めよ。ただし、太陽質量のブラックホールの蒸発時間が $2.1\times10^{67}$ 年であること（<Ref to="ex-evaporation-numbers" />）と、<Ref to="prop-evaporation" /> の比例関係を使ってよい。求めた質量のシュワルツシルト半径も計算し、陽子の直径 $1.7\times10^{-15}\ \mathrm{m}$ と比べよ。

<Solution>
<Ref to="prop-evaporation" /> より $t_{\text{ev}} \propto M_0^3$ ですから、太陽質量の場合との比を取ると

$$
\frac{1.38\times10^{10}}{2.1\times10^{67}} = \left(\frac{M_0}{1.99\times10^{30}}\right)^3 .
$$

左辺は $6.57\times10^{-58}$ です。3 乗根を取ります。指数を 3 の倍数に直すため $6.57\times10^{-58} = 657\times10^{-60}$ と書き直すと

$$
(657\times10^{-60})^{1/3} = 657^{1/3} \times 10^{-20} = 8.69\times10^{-20} .
$$

したがって

$$
M_0 = 1.99\times10^{30} \times 8.69\times10^{-20} = 1.7\times10^{11}\ \mathrm{kg} .
$$

$1.7$ 億トンほど、一辺 $400\ \mathrm{m}$ 程度の岩塊の質量です。

シュワルツシルト半径は <Ref to="prop-schwarzschild-radius" /> より

$$
r_s = \frac{2 \times 6.674\times10^{-11} \times 1.7\times10^{11}}{8.99\times10^{16}} = \frac{22.7}{8.99\times10^{16}} = 2.5\times10^{-16}\ \mathrm{m} .
$$

陽子の直径 $1.7\times10^{-15}\ \mathrm{m}$ の約 $1/7$ です。山ひとつ分の質量が陽子より小さい領域に押し込まれている、という奇妙な天体になります。

なお <Ref to="def-hawking-temperature" /> でこの天体の温度を計算すると $T_H = 1.23\times10^{23}/1.7\times10^{11} = 7\times10^{11}\ \mathrm{K}$ で、放射はガンマ線になります。原始ブラックホールの最期はガンマ線バーストとして見えるはずだ、というのがこの手の探索の基本的な考え方です。
</Solution>
</Exercise>

## 参考文献

- 佐藤文隆・原哲也『一般相対性理論』岩波書店、2000 — シュワルツシルト解と事象の地平面の標準的な導出。
- キップ・ソーン『ブラックホールと時空の歪み』林一・塚原周信 訳、白揚社、1997 — ブラックホール研究の歴史とワームホールの章。一般向けだが内容は本格的。
- S. W. Hawking, "Black hole explosions?", *Nature* **248** (1974), 30–31. [DOI: 10.1038/248030a0](https://doi.org/10.1038/248030a0) — ホーキング放射の原論文。
- M. S. Morris and K. S. Thorne, "Wormholes in spacetime and their use for interstellar travel: A tool for teaching general relativity", *American Journal of Physics* **56** (1988), 395–412. [DOI: 10.1119/1.15620](https://doi.org/10.1119/1.15620) — 通過可能ワームホールと負エネルギーの必要性。
- C. W. Misner, K. S. Thorne, J. A. Wheeler, *Gravitation*, Princeton University Press, 2017 (原著 1973) — 第 31 章にシュワルツシルト・ワームホールが通り抜け不能であることの議論がある。
- Event Horizon Telescope Collaboration, "First M87 Event Horizon Telescope Results. I. The Shadow of the Supermassive Black Hole", *The Astrophysical Journal Letters* **875** (2019), L1. [DOI: 10.3847/2041-8213/ab0ec7](https://doi.org/10.3847/2041-8213/ab0ec7) — 影の角径の測定値。

## Appendix: シュワルツシルト計量を眺めてみる

**本文の話がどこから来ているのかを、式の形で確認しておきます。** 一般相対性理論では、時空の 2 点の「隔たり」を測る規則（計量）が重力そのものです。質量 $M$ の球対称な天体の外側では、それは次の形になります。

$$
ds^2 = -\left(1 - \frac{r_s}{r}\right)c^2\,dt^2 + \frac{dr^2}{1 - r_s/r} + r^2\left(d\theta^2 + \sin^2\theta\, d\varphi^2\right),
\qquad r_s = \frac{2GM}{c^2} .
$$

$t$ は遠方の観測者の時計、$r$ は「その半径の球の面積が $4\pi r^2$ になるように決めた」座標です。

**時間の遅れは第 1 項から読めます。** 半径 $r$ の位置に静止している時計（$dr = d\theta = d\varphi = 0$）では $ds^2 = -(1 - r_s/r)c^2 dt^2$ なので、その時計が刻む固有時 $\tau$ は

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d\tau = \sqrt{1 - \frac{r_s}{r}}\; dt
$$

となります。遠方の $dt$ に比べて $d\tau$ は小さい。つまり重力が強い場所では時間がゆっくり進みます。そこから放たれた光の振動数も同じ因子だけ下がるので、これが <Ref to="rem-frozen-star" /> で使った赤方偏移の式です。$r \to r_s$ で因子は $0$ になり、外の観測者から見て「時間が止まる」ように見えます。

**$r = r_s$ で第 2 項の分母が $0$ になりますが、これは時空が壊れているのではありません。** 座標の取り方が悪いだけで、クルスカル座標などに移れば $r = r_s$ は何事もない滑らかな面になります。実際、そこでの潮汐力は <Ref to="prop-tidal" /> のとおり有限です。本当に発散するのは $r = 0$ で、そちらは座標をどう取り替えても消えません。

**内側で何が起こるかは、符号を見れば分かります。** $r < r_s$ では $1 - r_s/r$ が負になるので、$dt^2$ の係数が正に、$dr^2$ の係数が負になります。つまり $t$ と $r$ の役割が入れ替わり、$r$ が時間のような座標になるのです。時間を止められないのと同じ意味で、$r$ が減るのを止めることはできません。中心へ向かうことが「未来へ進む」ことと同じになる。これが、事象の地平面の内側から出られないことの、いちばん正確な言い方です。

「なぜ光は出られないのか」という問いに対して、ニュートン流の答えは「重力が強すぎて引き戻されるから」でした。相対論の答えはまったく違います。**出られないのは、外向きの方向が未来のなかに存在しなくなるからです。**
