# ビッグバンは本当にあったのか：膨張・背景放射・元素の比という三つの証拠

> 「宇宙は火の玉から始まった」を支える三つの証拠——ハッブル–ルメートルの法則、2.7 K の宇宙マイクロ波背景放射、水素とヘリウムの存在比——を数値計算まで追って検証し、この理論が何を説明し何を説明していないかを整理する。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/cosmology/big-bang-evidence

## 0. この記事の要点

- ビッグバン理論の中身は「宇宙は昔、いまよりずっと高温・高密度だった」です。「無の一点が爆発した」とは言っていません。ここを取り違えると、この理論はやたらと胡散臭く見えます。
- 第一の柱は膨張です。遠い銀河ほど速く遠ざかるハッブル–ルメートルの法則は、一様な膨張から必然的に出てきます。膨張の中心はどこにもありません。
- 第二の柱は宇宙マイクロ波背景放射（CMB）です。全天から届く温度 $2.7\ \mathrm{K}$ のほぼ完璧な黒体放射で、「昔は熱かった」以外の筋書きでは自然に作れません。
- 第三の柱は軽い元素の存在比です。誕生から約 3 分の間に作られたヘリウムの質量比を紙と鉛筆で計算すると $0.25$ になり、観測値 $0.245 \pm 0.003$ と合います。
- 三つは互いに独立に測れるのに、バリオンの量や宇宙の年齢という同じ数値を返します。偶然で片づかない理由はここにあります。
- ただし全部が合っているわけではありません。リチウム 7 の量は予言の約 3 分の 1 しかなく、未解決のままです。

## 1. 動機：焚き火の跡から昨夜の火を推理する

前の記事 [宇宙はなぜ真っ暗なのか？](/physics/cosmology/olbers-paradox) では、「夜空が暗い」というあまりに当たり前の事実が、実は「宇宙には始まりがある」ことを示唆している、という話をしました（<Ref to="physics/cosmology/olbers-paradox#thm-olbers" text="オルバースのパラドックス" /> と <Ref to="physics/cosmology/olbers-paradox#prop-finite-age" text="有限の年齢をもつ静的宇宙の夜空" />）。では、どんな始まり方だったのでしょうか。

現在の標準的な答えは、驚くほど素っ気ないものです。**宇宙は昔、いまよりずっと高温で高密度だった**。これがビッグバン理論の主張の中身です。「無から生まれた」とも「一点が爆発した」とも言っていません。むしろ「$t = 0$ に何が起きたか」については、この理論はきれいに沈黙しています。

素っ気ないぶん、この主張は検証しやすい。誰かが「昨夜ここで焚き火をした」と言い張っているとします。あなたは灰に手をかざして温もりを確かめ、燃え残りの炭を数え、周りの草の焦げ具合を見るでしょう。三つとも矛盾がなく、しかも「その火なら炭はこれくらい残るはずだ」という**量**まで合ったら、さすがに信じます。ビッグバンの「三つの柱」は、そっくり同じ構造をしています。

### 1.1. 誰がいつ言い出したのか

- 1922 年、アレクサンドル・フリードマンが一般相対性理論の方程式から、膨張または収縮する宇宙の解を見つけます。
- 1927 年、ジョルジュ・ルメートル（カトリック司祭でもある物理学者です）が同じ解を独立に導き、「銀河の後退速度は距離に比例するはずだ」と予言したうえ、時間をさかのぼって「原始的原子」という高密度の初期状態を提案しました。
- 1929 年、エドウィン・ハッブルが観測でその比例関係を示します。2018 年に国際天文学連合は、この法則を**ハッブル–ルメートルの法則**と呼ぶことを推奨しました（<Ref to="physics/cosmology/age-and-size-of-the-universe#prop-hubble-law" text="ハッブル・ルメートルの法則" />）。
- 1948 年、ジョージ・ガモフらが「初期宇宙が高温だったなら元素が作れるはずだ」と考え、副産物として「残り火が $5\ \mathrm{K}$ 程度の電波として全天を満たしているはずだ」と予言します。
- 一方でフレッド・ホイルらは、宇宙は膨張しつつも物質が湧き出して常に同じ姿を保つという**定常宇宙論**を主張しました。ホイルが 1949 年の BBC ラジオで対立仮説を「ビッグバン」と呼んだのが、この名前の始まりです。揶揄のつもりだったと語られがちですが、本人は後年それを否定しています。
- 1965 年、アーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンが偶然その残り火を拾い、勝負がつきました。

<Aside type="note">
「ビッグバン理論」という語は、狭くは「初期宇宙が高温・高密度だった」という主張を、広くはインフレーションやダークマターまで含む現代の標準宇宙モデル全体を指します。この記事で検証するのは狭い意味のほうです。広い意味については [ダークマターとダークエネルギー](/physics/cosmology/dark-matter-and-dark-energy) を参照してください。
</Aside>

## 2. 準備：三つの道具と一枚の年表

本論に入る前に、繰り返し使う三つの道具を定義しておきます。

<Definition id="def-redshift" title="赤方偏移">
天体が出した光の波長を $\lambda_{\mathrm{emit}}$、地球で受け取った波長を $\lambda_{\mathrm{obs}}$ とするとき、
$$
z = \frac{\lambda_{\mathrm{obs}} - \lambda_{\mathrm{emit}}}{\lambda_{\mathrm{emit}}}
$$
をその天体の**赤方偏移**という。$z > 0$ は波長が伸びて赤い側にずれることを意味する。
</Definition>

$\lambda_{\mathrm{emit}}$ が分かるのは、原子が出す輝線・吸収線の波長が実験室で精密に測られているからです。たとえば水素のバルマー系列の $\mathrm{H}\alpha$ 線は静止状態で $656.3\ \mathrm{nm}$ です。遠方銀河のスペクトルで線のパターン全体が同じ比率でずれていれば、それが赤方偏移です。

<Definition id="def-scale-factor" title="スケール因子">
重力で互いに束縛されていない二つの銀河のあいだの距離 $D(t)$ が、どの銀河の組についても
$$
D(t) = a(t)\, D_0
$$
と書けるとき、$a(t)$ を宇宙の**スケール因子**という。$D_0$ は銀河の組ごとに決まる定数で、現在の値を $a(t_0) = 1$ と規格化する。
</Definition>

「重力で束縛されていない」という但し書きは飾りではありません。銀河団の内部、太陽系、原子、そしてあなたの身長は膨張しません。重力や電磁気力が膨張に打ち勝つからです。膨張するのは、束縛が効かないほど遠く離れた領域どうしの距離だけです。

<Definition id="def-blackbody" title="黒体放射">
温度 $T$ の物体が熱平衡状態で放つ電磁波を**黒体放射**という。その波長ごとの光子数密度はプランクの式
$$
n_\lambda(\lambda)\, d\lambda = \frac{8\pi}{\lambda^{4}}\, \frac{d\lambda}{e^{hc/(\lambda k T)} - 1}
$$
で与えられ、温度 $T$ ただ一つで形が決まる。ここで $h$ はプランク定数、$k$ はボルツマン定数、$c$ は光速である。
</Definition>

黒体放射の重要な性質は、**形が温度だけで決まる**ことです。裏を返せば、観測されたスペクトルが黒体の形をしていたら、それを作った場所は熱平衡にあったと分かります。これは強い制約で、あとで効いてきます。

温度の単位も約束しておきます。素粒子の世界では温度をエネルギー $kT$ で表すのが慣例で、$kT = 1\ \mathrm{MeV}$ は $T = 1.16 \times 10^{10}\ \mathrm{K}$、つまり約 100 億度です。$\mathrm{MeV}$ を使う場面では毎回ケルビンに換算して添えます。

最後に、何度も参照する年表を貼っておきます。数字の根拠はすべてこの記事の中で計算します。

<Figure caption="ビッグバン理論が描く宇宙の履歴書。三つの柱はそれぞれ別の時代の痕跡を見ている。">
<Mermaid code={`flowchart LR
  A["約 1 秒後<br/>約 90 億 K<br/>中性子と陽子の比が凍結"] --> B["約 3 分後<br/>約 8 億 K<br/>ヘリウムができる"] --> C["約 38 万年後<br/>約 3000 K<br/>宇宙が晴れ上がる"] --> D["数億年後<br/>最初の星と銀河"] --> E["約 138 億年後<br/>2.7 K<br/>いま"]`} />
</Figure>

## 3. 第一の柱：宇宙は膨張している

### 3.1. 観測されたこと

ハッブルが 1929 年にまとめた事実は二つです。第一に、ほとんどの銀河のスペクトルが赤方偏移している。第二に、遠い銀河ほど赤方偏移が大きい。$z \ll 1$ のとき赤方偏移はドップラー効果と同じ式で読めるので、後退速度 $v \approx cz$ とすると

$$
v = H_0 d
$$

という比例関係になります。$H_0$ を**ハッブル定数**といい、現在の測定値はおよそ $70\ \mathrm{km/s/Mpc}$ です。$1\ \mathrm{Mpc}$（メガパーセク）は約 326 万光年で、「$1\ \mathrm{Mpc}$ 離れるごとに後退速度が $70\ \mathrm{km/s}$ ずつ増える」と読みます。

ここで多くの人がつまずきます。**全部の銀河がこっちから遠ざかるなら、地球が宇宙の中心なのか？** 答えは「中心ではない」で、しかもそれは観測ではなく算数で示せます。

### 3.2. 一様な膨張は必ずハッブルの法則になる

<Proposition id="prop-hubble-law" title="ハッブルの法則の必然性">
次の三つを仮定する。

1. （一様性）どの銀河に乗った観測者も、距離 $d$ 離れた銀河が遠ざかる速さとして同じ関数 $v(d)$ を測る。
2. （速度の合成）速さは光速に比べて十分小さく、速度は単純に足し算できる。
3. （連続性）$v(d)$ は $d$ の連続関数である。

このとき、ある定数 $H$ が存在して、すべての $d > 0$ について $v(d) = H d$ が成り立つ。
</Proposition>

<Proof of="prop-hubble-law">
一直線上に並んだ三つの銀河 $\mathrm{O}$, $\mathrm{A}$, $\mathrm{B}$ を考え、$\mathrm{OA}$ 間の距離と $\mathrm{AB}$ 間の距離がどちらも $d$ であるとします。

$\mathrm{O}$ から見て $\mathrm{A}$ は速さ $v(d)$ で遠ざかります。仮定 1 より $\mathrm{A}$ から見ても $\mathrm{B}$ は速さ $v(d)$ で遠ざかります（$\mathrm{AB}$ 間も距離 $d$ だからです）。仮定 2 より、$\mathrm{O}$ から見た $\mathrm{B}$ の速さは二つの和で、しかも $\mathrm{OB}$ 間の距離は $2d$ ですから

$$
v(2d) = v(d) + v(d) = 2\,v(d)
$$

を得ます。同じ議論を $n$ 個の等間隔な銀河に繰り返せば、任意の自然数 $n$ について $v(nd) = n\,v(d)$ です。

次に $d$ を $n$ 等分した長さ $d/n$ を考えます。いま示した式を $d/n$ に適用すると $v(d) = v\!\left(n \cdot \frac{d}{n}\right) = n\, v\!\left(\frac{d}{n}\right)$ なので、$v(d/n) = v(d)/n$ です。したがって任意の正の有理数 $q = m/n$ について

$$
v(qd) = v\!\left(m \cdot \frac{d}{n}\right) = m\, v\!\left(\frac{d}{n}\right) = \frac{m}{n}\, v(d) = q\, v(d)
$$

が成り立ちます。正の有理数は正の実数の中で稠密ですから、仮定 3（連続性）より、任意の実数 $t > 0$ について $v(td) = t\, v(d)$ です。

そこで基準の距離 $d_0$ を一つ固定し、$H = v(d_0)/d_0$ とおきます。任意の $d > 0$ は $d = (d/d_0)\, d_0$ と書けるので

$$
v(d) = \frac{d}{d_0}\, v(d_0) = H d
$$

となり、主張が示されました。
</Proof>

<Corollary id="cor-no-center" title="膨張に中心はない">
<Ref to="prop-hubble-law" /> の仮定のもとで、どの銀河に乗った観測者も「自分は静止していて、他のすべての銀河が自分から遠ざかっている」と観測する。したがって観測から膨張の中心を特定することはできない。
</Corollary>

<Proof of="cor-no-center">
速度場を $\boldsymbol{v}(\boldsymbol{r}) = H \boldsymbol{r}$ と書きます（<Ref to="prop-hubble-law" /> により速さは距離に比例し、向きは膨張なので動径方向です）。銀河 $\mathrm{A}$ の位置を $\boldsymbol{r}_A$ とすると、$\mathrm{A}$ に乗った観測者が測る速度は、仮定 2 の速度の合成により全体から $\boldsymbol{v}(\boldsymbol{r}_A)$ を引いたものです。$\mathrm{A}$ から見た位置を $\boldsymbol{r}' = \boldsymbol{r} - \boldsymbol{r}_A$ と書くと

$$
\boldsymbol{v}'(\boldsymbol{r}') = H\boldsymbol{r} - H\boldsymbol{r}_A = H(\boldsymbol{r} - \boldsymbol{r}_A) = H \boldsymbol{r}'
$$

となります。これは元とまったく同じ形の法則です。$\mathrm{A}$ は任意に選べたので、どの銀河でも同じ結論になります。つまり「自分が中心に見える」ことは、どの観測者にも等しく起こります。
</Proof>

この事情を絵にしておきます。

<Figure caption="一様な膨張には中心がない。中段と下段はまったく同じ配置で、紙の上でどの銀河を止めて描いたかだけが違う。どちらの絵でも「遠い銀河ほど大きく動いた」ように見える。">
<svg viewBox="0 0 660 300" width="100%" role="img" aria-label="一様に膨張する4個の銀河の配置を、固定する銀河を変えて2通りに描いた図">
  <g stroke="currentColor" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3" opacity="0.5">
    <line x1="220" y1="49" x2="140" y2="141" />
    <line x1="300" y1="49" x2="260" y2="141" />
    <line x1="380" y1="49" x2="380" y2="141" />
    <line x1="460" y1="49" x2="500" y2="141" />
  </g>
  <g stroke="var(--sl-color-accent)" stroke-width="1.5" stroke-dasharray="2 4">
    <line x1="140" y1="159" x2="220" y2="251" />
    <line x1="260" y1="159" x2="340" y2="251" />
    <line x1="380" y1="159" x2="460" y2="251" />
    <line x1="500" y1="159" x2="580" y2="251" />
  </g>
  <g fill="currentColor">
    <circle cx="220" cy="40" r="7" />
    <circle cx="300" cy="40" r="7" />
    <circle cx="380" cy="40" r="7" />
    <circle cx="460" cy="40" r="7" />
    <circle cx="140" cy="150" r="7" />
    <circle cx="260" cy="150" r="7" />
    <circle cx="380" cy="150" r="7" />
    <circle cx="500" cy="150" r="7" />
    <circle cx="220" cy="240" r="7" />
    <circle cx="340" cy="240" r="7" />
    <circle cx="460" cy="240" r="7" />
    <circle cx="580" cy="240" r="7" />
  </g>
  <g fill="none" stroke="var(--sl-color-accent)" stroke-width="2">
    <circle cx="380" cy="150" r="13" />
    <circle cx="220" cy="240" r="13" />
  </g>
  <g fill="currentColor" font-size="13">
    <text x="236" y="45">A</text>
    <text x="316" y="45">B</text>
    <text x="396" y="45">C</text>
    <text x="476" y="45">D</text>
    <text x="156" y="155">A</text>
    <text x="276" y="155">B</text>
    <text x="396" y="155">C</text>
    <text x="516" y="155">D</text>
    <text x="236" y="245">A</text>
    <text x="356" y="245">B</text>
    <text x="476" y="245">C</text>
    <text x="596" y="245">D</text>
  </g>
  <g fill="currentColor" font-size="14">
    <text x="12" y="45">時刻 t₁</text>
    <text x="12" y="148">時刻 t₂</text>
    <text x="12" y="166">（C を固定）</text>
    <text x="12" y="238">時刻 t₂</text>
    <text x="12" y="256">（A を固定）</text>
  </g>
  <text x="330" y="292" fill="currentColor" font-size="12" text-anchor="middle" opacity="0.8">中段と下段は同じ宇宙。紙のどこを画鋲で留めたかが違うだけ</text>
</svg>
</Figure>

<Aside type="tip">
干しぶどう入りのパン生地が膨らむところを想像してください。どの干しぶどうに顔を近づけても、他が遠ざかっていき、遠いものほど速く離れます。パン生地に「中心」はありません。ただしパンには表面と外側がある、という点だけが比喩の限界です。
</Aside>

<Example id="ex-coma-distance" title="かみのけ座銀河団までの距離">
かみのけ座銀河団の後退速度は約 $6900\ \mathrm{km/s}$ と測られています。$H_0 = 70\ \mathrm{km/s/Mpc}$ を使うと

$$
d = \frac{v}{H_0} = \frac{6900\ \mathrm{km/s}}{70\ \mathrm{km/s/Mpc}} = 98.6\ \mathrm{Mpc}
$$

です。光年に直すと $98.6 \times 3.26 \times 10^{6} = 3.2 \times 10^{8}$ 光年、約 3 億 2000 万光年。いま見えている姿は、地球にまだ恐竜が現れていなかった頃に出た光です。

この推定は $H_0$ の値を借りています。$H_0$ 自体は近くの天体を別の方法で測って決めるもので、その手順は [なぜ星までの距離がわかるのか？](/physics/cosmology/cosmic-distance-ladder) で扱います（視差からセファイド、超新星へと目盛りを継いでいく手順は <Ref to="physics/cosmology/cosmic-distance-ladder#prop-ladder-additivity" text="はしごの継ぎ方と誤差の伝わり方" /> にまとめてあります）。
</Example>

### 3.3. 時間を巻き戻すと

膨張しているなら、過去にさかのぼれば密度は上がります。どこまでさかのぼれるでしょうか。いちばん粗い見積もりは、膨張の速さがずっと一定だったと仮定するものです。

<Proposition id="prop-hubble-time" title="ハッブル時間">
すべての銀河が過去にわたって一定の速さ $v = H_0 d$ で遠ざかってきたと仮定すると、どの銀河も時間 $1/H_0$ だけ前には同じ場所にいたことになる。$H_0 = 70\ \mathrm{km/s/Mpc}$ のとき $1/H_0 \approx 1.40 \times 10^{10}$ 年である。
</Proposition>

<Proof of="prop-hubble-time">
現在の距離が $d$ の銀河が一定の速さ $v = H_0 d$ で遠ざかってきたなら、距離が $0$ だった時刻は現在から $t = d/v = d/(H_0 d) = 1/H_0$ だけ前です。この値は $d$ を含みません。つまり**どの銀河についても同じ時刻**になり、その時刻にすべてが重なっていたことになります。

数値を出します。$1\ \mathrm{Mpc} = 3.086 \times 10^{19}\ \mathrm{km}$ ですから

$$
H_0 = \frac{70\ \mathrm{km/s}}{3.086 \times 10^{19}\ \mathrm{km}} = 2.27 \times 10^{-18}\ \mathrm{s^{-1}}
$$

$$
\frac{1}{H_0} = 4.41 \times 10^{17}\ \mathrm{s}
$$

1 年は $3.156 \times 10^{7}\ \mathrm{s}$ なので

$$
\frac{1}{H_0} = \frac{4.41 \times 10^{17}}{3.156 \times 10^{7}}\ \text{年} = 1.40 \times 10^{10}\ \text{年}
$$

すなわち約 140 億年です。
</Proof>

実際の膨張は一定ではありません。物質の重力は膨張を減速させ、ダークエネルギーは加速させます。両方を入れた現在の推定値は 138 億年で、上の粗い見積もりと 2 % しか違いません。減速していた時代と加速している時代の効果がほぼ相殺するためです。この 138 億年を積分から出す計算は <Ref to="physics/cosmology/age-and-size-of-the-universe#thm-lcdm-age" text="物質とダークエネルギーからなる平坦な宇宙の年齢" /> にあります。詳しくは [宇宙の果てと年齢](/physics/cosmology/age-and-size-of-the-universe) を参照してください。

<Remark id="rem-hubble-tension" title="ハッブル定数はまだ揉めている">
$H_0$ の値は測り方によって食い違っています。CMB のゆらぎから間接的に決めると $67.4 \pm 0.5\ \mathrm{km/s/Mpc}$、近傍のセファイド変光星と超新星から直接決めると $73 \pm 1\ \mathrm{km/s/Mpc}$ で、誤差を考えると偶然では説明しにくい差です。これを**ハッブル・テンション**と呼びます。直接測定の側でこの差がどこから来ているかは <Ref to="physics/cosmology/cosmic-distance-ladder#ex-hubble-tension" text="0.17 等が引き起こしている大論争" /> で扱っています。ただしこれは「膨張しているか」ではなく「どれくらいの速さか」の議論で、第一の柱そのものは揺らいでいません。
</Remark>

<Remark id="rem-redshift-stretch" title="赤方偏移は空間の伸びである">
遠方銀河の赤方偏移は、厳密にはドップラー効果ではありません。一般相対性理論を使うと、光が飛んでいるあいだに空間が伸びた分だけ波長も伸びる、という関係
$$
1 + z = \frac{1}{a(t_{\mathrm{emit}})}
$$
が導かれます（現在を $a(t_0) = 1$ と規格化しています）。伸びるゴム紐に描いた波の絵が、紐と一緒に伸びると思ってください。$z \ll 1$ ではこれがドップラーの式 $v \approx cz$ と一致するので近傍では速度として読めますが、$z = 3$ の銀河が光速の 3 倍で動いているわけではありません。導出は Ryden の教科書の宇宙膨張の章にあります。
</Remark>

## 4. 第二の柱：宇宙マイクロ波背景放射

### 4.1. 予言が先、発見が後

ガモフたちは 1948 年に「初期宇宙が高温なら、当時の熱放射がいまも冷えた形で残っているはずだ」と指摘し、アルファーとハーマンが $5\ \mathrm{K}$ 程度という数字を出しました。当時これを本気で探しに行った人はほとんどいません。$5\ \mathrm{K}$ の電波などノイズに埋もれて見えっこない、というのが常識だったのです。

1964 年、ベル研究所のペンジアスとウィルソンは、衛星通信用のホーンアンテナで波長 $7.35\ \mathrm{cm}$ の電波を測っていました。どうしても消えない過剰な雑音があり、アンテナの温度に直すと $3.5 \pm 1.0\ \mathrm{K}$。装置を疑い、アンテナの中に巣を作っていた鳩を追い出し、鳩が残した「白い誘電体物質」を掃除しました。それでも雑音は残ります。空のどの方向に向けても、季節が変わっても、同じ強さでした。

同じ頃プリンストン大学のディッケらが、まさにガモフの残り火を探す装置を作っていました。電話一本で話がつながり、1965 年に二本の論文が同じ号に並びます。ペンジアスとウィルソンは観測結果だけを淡々と書き、ディッケらがそれを「宇宙の残り火である」と解釈しました。この発見は 1978 年のノーベル物理学賞になりました。

### 4.2. 黒体であることの意味

この放射が決定的な証拠になるのは、**スペクトルの形**のためです。1990 年、COBE 衛星の FIRAS 測定器が、CMB のスペクトルが温度 $2.7255\ \mathrm{K}$ の黒体放射とピーク強度の $10^{-4}$ 以下の精度で一致することを示しました。人類が測定したなかで最も完璧な黒体スペクトルです。

<Example id="ex-cmb-peak" title="ピーク波長を出してみる">
黒体放射のピーク波長はウィーンの変位則 $\lambda_{\max} T = 2.898 \times 10^{-3}\ \mathrm{m \cdot K}$ で決まります。$T = 2.7255\ \mathrm{K}$ を入れると

$$
\lambda_{\max} = \frac{2.898 \times 10^{-3}\ \mathrm{m \cdot K}}{2.7255\ \mathrm{K}} = 1.06 \times 10^{-3}\ \mathrm{m}
$$

約 $1.1\ \mathrm{mm}$、マイクロ波からミリ波の領域です。「宇宙マイクロ波背景放射」の名前はここから来ています。ちなみに $2.7\ \mathrm{K}$ の放射は $1\ \mathrm{cm^3}$ あたり約 411 個の光子に相当します。いまあなたの親指の先ほどの空間にも、宇宙の初期から飛び続けている光子が 400 個ほど入っています。
</Example>

黒体スペクトルは熱平衡の指紋です。星の光を塵が吸って再放射しても、いろいろな温度の塵が混ざるので、これほどきれいな単一温度の黒体にはなりません。宇宙全体が一度きっちり熱平衡になっていた、という筋書き以外でこの精度を出せた人は、まだいません。

### 4.3. 冷えても黒体のままである

「昔は熱かった放射がいまは $2.7\ \mathrm{K}$ になった」と言うためには、膨張で薄まった黒体放射が黒体のままでいることを示さなければなりません。これは計算で確かめられます。

<Proposition id="prop-blackbody-preserved" title="膨張は黒体放射を黒体放射に保つ">
光子が生成も消滅もせず、宇宙のスケール因子が $a(t_1)$ から $a(t_2)$ へ $s = a(t_2)/a(t_1) > 1$ 倍になったとする。時刻 $t_1$ で温度 $T$ の黒体放射だったものは、時刻 $t_2$ には温度 $T/s$ の黒体放射になる。すなわち温度はスケール因子に反比例し、<Ref to="rem-redshift-stretch" /> と合わせると
$$
T(z) = T_0\,(1+z)
$$
が成り立つ。ここで $T_0$ は現在の温度である。
</Proposition>

<Proof of="prop-blackbody-preserved">
必要な事実は二つだけです。

第一に、<Ref to="rem-redshift-stretch" /> より、すべての光子の波長は空間と一緒に伸びて $\lambda \to s\lambda$ となります。

第二に、光子は作られも壊れもしないので個数は保存し、一方で体積は $s^3$ 倍になります。したがって光子の数密度は $s^{-3}$ 倍になります。

さて、時刻 $t_1$ に波長が $[\lambda,\ \lambda + d\lambda]$ の範囲にあった光子は、時刻 $t_2$ には $[s\lambda,\ s\lambda + s\,d\lambda]$ の範囲にあります。第二の事実から、その数密度は

$$
s^{-3}\, n_\lambda(\lambda)\, d\lambda = s^{-3}\, \frac{8\pi}{\lambda^{4}}\, \frac{d\lambda}{e^{hc/(\lambda k T)} - 1}
$$

です。これが温度 $T/s$ のプランク分布と一致するかどうかを確かめます。<Ref to="def-blackbody" /> の式で温度を $T/s$、波長を $\lambda' = s\lambda$、幅を $d\lambda' = s\, d\lambda$ として代入すると

$$
\frac{8\pi}{(s\lambda)^{4}}\, \frac{s\, d\lambda}{e^{hc/\left(s\lambda \cdot k T/s\right)} - 1}
= \frac{8\pi}{s^{4}\lambda^{4}}\, \frac{s\, d\lambda}{e^{hc/(\lambda k T)} - 1}
= s^{-3}\, \frac{8\pi}{\lambda^{4}}\, \frac{d\lambda}{e^{hc/(\lambda k T)} - 1}
$$

となります。要になるのは指数の中身で、波長が $s$ 倍、温度が $1/s$ 倍になったために $s$ が約分され、$hc/(\lambda k T)$ が元のまま残ることです。二つの式は完全に一致しました。

よって時刻 $t_2$ の光子分布は、温度 $T/s$ のプランク分布そのものです。$T \propto 1/a$ が示され、$a = 1/(1+z)$ を代入して $T(z) = T_0 (1+z)$ を得ます。
</Proof>

この命題は「熱かった過去」を定量的な主張に変えます。温度を測れば、その時代のスケール因子が分かるのです。

<Example id="ex-recombination-redshift" title="宇宙が晴れ上がった時刻">
温度が数千 K を超えると、水素原子は電子を引き止められずプラズマになります。自由電子は光をよく散乱するので、宇宙は濃い霧のように不透明です。温度が下がって電子が陽子に捕まると散乱が急に効かなくなり、光は直進できるようになります。これを**宇宙の晴れ上がり**といい、$T \approx 3000\ \mathrm{K}$ で起こります。

<Ref to="prop-blackbody-preserved" /> を使うと、その時刻の赤方偏移は

$$
1 + z = \frac{T}{T_0} = \frac{3000\ \mathrm{K}}{2.7255\ \mathrm{K}} = 1101
$$

すなわち $z \approx 1100$ です。当時の宇宙の長さは現在の $1/1100$、体積は $1/1100^3 \approx 1/(1.3 \times 10^{9})$、つまり十億分の一以下でした。時刻でいえば宇宙誕生から約 38 万年後にあたります。

私たちが見ている CMB は、この「霧が晴れた瞬間の壁」から届く光です。地球を中心とする球面の上に、どの方向にもその壁があります。地球が特別なのではなく、<Ref to="cor-no-center" /> と同じ理屈で、どの銀河の住人も自分を中心とする同じ壁を見ます。
</Example>

### 4.4. 予言はさらに続く

CMB が本当に「宇宙全体が冷えていった残り」なら、<Ref to="prop-blackbody-preserved" /> の $T(z) = T_0(1+z)$ は過去についても成り立つはずです。これは実際に検証できます。

<Example id="ex-cmb-temperature-at-z" title="昔の宇宙の温度を直接測る">
遠方のクェーサーの光が途中のガス雲を通るとき、ガスの分子や原子が特定の波長を吸収します。分子には近接したエネルギー準位があり、そこにどれだけ分布しているかは周囲の放射の温度で決まります。つまり吸収線の強さの比が、そのガス雲がいる時代の CMB 温度計になります。

赤方偏移 $z \approx 2.7$ のガス雲でこれを測ると、$T \approx 10\ \mathrm{K}$ という値が得られます。理論の予言は

$$
T = 2.7255 \times (1 + 2.7) = 10.1\ \mathrm{K}
$$

で、観測と一致します。もし CMB が「昔から $2.7\ \mathrm{K}$ でそこにあるだけの何か」なら、この温度は $z$ によらず一定のはずでした。予言は当たり、対立仮説は落ちました。
</Example>

もう一つの予言が**温度のゆらぎ**です。晴れ上がりの時点で物質が完全に一様だったら、その後 138 億年かけても銀河はできません。重力で集まるための種が要ります。ビッグバン理論は「CMB にわずかな温度差があるはずだ」と予言し、1992 年に COBE がそれを見つけました。大きさは $\Delta T / T \sim 10^{-5}$、$10$ 万分の $1$ です。この発見は 2006 年のノーベル物理学賞になりました。

<Aside type="caution">
CMB には $3.4\ \mathrm{mK}$ という比較的大きな温度差も見えます。空の片側が熱く反対側が冷たい、という双極子成分です。ただしこれは宇宙のゆらぎではなく、太陽系が CMB に対して秒速約 $370\ \mathrm{km}$ で動いているためのドップラー効果です。これを引き算した残りが本物のゆらぎ $10^{-5}$ です。
</Aside>

<Aside type="tip">
地上デジタル放送に切り替わる前、テレビの空きチャンネルに映る砂嵐にも CMB が混ざっていました。全体の 1 % 程度と見積もられます。宇宙の始まりの光を、私たちは長いあいだ「映りが悪い」と言って嫌っていたわけです。
</Aside>

## 5. 第三の柱：水素とヘリウムの比

### 5.1. 宇宙はなぜこんなにヘリウムだらけなのか

宇宙にある普通の物質を質量で数えると、およそ 75 % が水素、25 % がヘリウム、残りの数 % 未満がそれ以外の全元素です。炭素も酸素も鉄も、宇宙全体では端数にすぎません。

問題はヘリウムの 25 % です。「星の内部で水素が核融合してヘリウムになったのだろう」と考えたくなりますが、数が合いません。理由は二つあります。

第一に、量が足りません。星が一生のあいだに燃やす水素の総量を銀河全体で足し上げても、作れるヘリウムは数 % のオーダーで、25 % には遠く及びません。

第二に、こちらが決定的です。星がヘリウムを作るとき、炭素や酸素などの重い元素も一緒に作ります。「星が作った」なら、重い元素の少ない天体ほどヘリウムも少ないはずです。実際、酸素の量が非常に少ない（星による汚染をほとんど受けていない）銀河ほどヘリウム質量比は小さくなりますが、**ある値で下げ止まります**。酸素の量をゼロに外挿した値は $0.245 \pm 0.003$。星が一つもできる前から、宇宙にはこれだけのヘリウムがあったことになります。

<Definition id="def-helium-fraction" title="ヘリウム質量比">
バリオン（陽子と中性子からなる普通の物質）の全質量のうち $^4\mathrm{He}$ が占める割合を $Y$ と書き、**ヘリウム質量比**という。星による生成を差し引いた初期宇宙起源の値を**原始ヘリウム質量比** $Y_p$ という。
</Definition>

### 5.2. 誕生から 3 分間に起きたこと

ビッグバン理論の答えはこうです。宇宙が高温だった時代、陽子と中性子は互いに変換されながら熱平衡にありました。温度が下がると反応が追いつかなくなり、比が固定されます。その後、生き残った中性子はほとんどすべてヘリウム 4 に取り込まれます。つまり $Y$ は**中性子と陽子の個数比だけ**で決まります。

<Lemma id="lem-neutron-proton-ratio" title="熱平衡での中性子と陽子の個数比">
中性子と陽子が弱い相互作用（$n + \nu_e \leftrightarrow p + e^-$ など）によって温度 $T$ の熱平衡にあり、$kT \ll m_p c^2$ で、電子とニュートリノの化学ポテンシャルが無視できるとする。このとき両者の個数密度の比は
$$
\frac{n_n}{n_p} = \left(\frac{m_n}{m_p}\right)^{3/2} \exp\!\left(-\frac{(m_n - m_p)c^2}{kT}\right) \approx \exp\!\left(-\frac{1.29\ \mathrm{MeV}}{kT}\right)
$$
である。
</Lemma>

<Proof of="lem-neutron-proton-ratio">
$kT \ll mc^2$ の非相対論的な粒子が温度 $T$ の熱平衡にあるとき、その数密度はマクスウェル–ボルツマン分布から

$$
n = g\left(\frac{2\pi m k T}{h^{2}}\right)^{3/2} e^{-mc^{2}/kT}
$$

と書けます。ここで $g$ は内部自由度の数です。いま扱う温度は $kT \sim 1\ \mathrm{MeV}$、核子の静止エネルギーは $m c^2 \approx 939\ \mathrm{MeV}$ なので $kT/mc^2 \sim 10^{-3}$ となり、非相対論的という条件は十分満たされます。

中性子と陽子はどちらもスピン $1/2$ で $g = 2$ ですから、比を取ると $g$ と $(2\pi kT/h^2)^{3/2}$ が約分され

$$
\frac{n_n}{n_p} = \left(\frac{m_n}{m_p}\right)^{3/2} \exp\!\left(-\frac{(m_n - m_p)c^{2}}{kT}\right)
$$

が残ります。数値を入れます。$m_n c^2 = 939.565\ \mathrm{MeV}$、$m_p c^2 = 938.272\ \mathrm{MeV}$ なので $m_n/m_p = 1.0014$ であり、$(1.0014)^{3/2} = 1.002$ です。これは 1 % 未満の補正なので落とします。質量差は

$$
(m_n - m_p)c^{2} = 939.565 - 938.272 = 1.293 \approx 1.29\ \mathrm{MeV}
$$

です。以上で主張の式が得られました。

$\exp$ の中身は負なので $n_n < n_p$ です。中性子のほうがわずかに重いぶん作りにくい、というだけの話ですが、この $1.29\ \mathrm{MeV}$ の差が宇宙の元素組成を決めてしまいます。
</Proof>

<Example id="ex-neutron-decay" title="1 秒後の凍結と 3 分間の目減り">
<Ref to="lem-neutron-proton-ratio" /> の式は、平衡が保たれているあいだしか使えません。平衡を保つ弱い相互作用の反応率は温度の 5 乗に比例して急落する一方、宇宙の膨張率は温度の 2 乗にしか比例しないので、温度が下がればどこかで必ず反応が追いつかなくなります。この分かれ目が $kT \approx 0.8\ \mathrm{MeV}$（約 90 億 K、誕生から約 1 秒）で、以後は比が**凍結**します。そのときの値は

$$
\frac{n_n}{n_p} = \exp\!\left(-\frac{1.29}{0.8}\right) = e^{-1.61} = 0.20 = \frac{1}{5}
$$

です。ところがヘリウム合成はすぐには始まりません。ヘリウムを作るにはまず重水素 $\mathrm{D} = {}^2\mathrm{H}$ を作る必要がありますが、重水素の結合エネルギーは $2.22\ \mathrm{MeV}$ と小さく、しかも宇宙には核子 1 個あたり約 16 億個という桁違いの数の光子があります。分布の裾にいる高エネルギー光子が重水素を片端から壊してしまうため、温度が

$$
kT \approx \frac{2.22\ \mathrm{MeV}}{\ln(16 \times 10^{8})} \approx \frac{2.22}{21} \approx 0.1\ \mathrm{MeV}
$$

程度まで下がるまで、重水素は生き残れません。詳しい計算では $kT \approx 0.07\ \mathrm{MeV}$（約 8 億 K）、時刻にして誕生から約 3 分です。これを**重水素のボトルネック**といいます。

この待ち時間のあいだ、自由な中性子は平均寿命 $\tau = 880\ \mathrm{s}$ でベータ崩壊し、陽子に変わっていきます。凍結時に陽子 1 に対し中性子 0.2 だったとして、$t = 250\ \mathrm{s}$ 後を計算します。

$$
n_n = 0.2 \times e^{-250/880} = 0.2 \times 0.753 = 0.151
$$

崩壊した中性子は陽子に変わるので

$$
n_p = 1 + (0.2 - 0.151) = 1.049
$$

したがって

$$
\frac{n_n}{n_p} = \frac{0.151}{1.049} = 0.143 = \frac{1}{7}
$$

$1/5$ だった比が、待たされているあいだに $1/7$ まで目減りしました。
</Example>

<Proposition id="prop-helium-quarter" title="ヘリウム質量比は 1/4 になる">
軽元素合成が始まる時点での中性子と陽子の個数比が $n_n : n_p = 1 : 7$ であり、中性子がすべて $^4\mathrm{He}$ に取り込まれ、$^4\mathrm{He}$ より重い原子核の生成量が無視できるとする。このとき生成する $^4\mathrm{He}$ の質量比は
$$
Y = \frac{2\,(n_n/n_p)}{1 + n_n/n_p} = \frac{1}{4}
$$
である。
</Proposition>

<Proof of="prop-helium-quarter">
まず具体的な数で見ます。核子を 16 個取ってくると、比が $1:7$ なので中性子 2 個、陽子 14 個です。$^4\mathrm{He}$ の原子核は陽子 2 個と中性子 2 個からできています。中性子がすべて取り込まれるという仮定から、中性子 2 個は陽子 2 個と組んで $^4\mathrm{He}$ を 1 個作ります。残る陽子 12 個は、そのまま水素の原子核です。

核子 1 個の質量をおよその単位として質量を数えると、全体は 16、$^4\mathrm{He}$ は 4 です。したがって

$$
Y = \frac{4}{16} = 0.25
$$

一般の比でも同じことをします。中性子 $N_n$ 個、陽子 $N_p$ 個（$N_n \le N_p$）があるとき、生成する $^4\mathrm{He}$ の個数は $N_n/2$ 個で、その質量は核子質量を単位として $4 \times (N_n/2) = 2N_n$ です。全質量は $N_n + N_p$ ですから

$$
Y = \frac{2N_n}{N_n + N_p} = \frac{2\,(N_n/N_p)}{1 + N_n/N_p}
$$

となります。<Ref to="ex-neutron-decay" /> で求めた $N_n/N_p = 1/7$ を代入すると

$$
Y = \frac{2 \times \frac{1}{7}}{1 + \frac{1}{7}} = \frac{\frac{2}{7}}{\frac{8}{7}} = \frac{2}{8} = \frac{1}{4}
$$

を得ます。
</Proof>

紙と鉛筆だけで出た $0.25$ に対し、観測値は $Y_p = 0.245 \pm 0.003$。粗い見積もりとしては、できすぎと言っていい一致です。丁寧な数値計算では $0.247$ が出ます。

### 5.3. 重水素は「バリオン計」になる

さらに強い証拠があります。<Ref to="ex-neutron-decay" /> で見たように、合成が始まる時刻は核子と光子の数の比 $\eta$（バリオン・光子比）で決まります。バリオンが多ければ核反応が速く進んで重水素は残らず、少なければ反応が中途半端に終わって重水素が余ります。つまり**残った重水素の量が、宇宙のバリオンの量を測るものさしになる**のです。

しかも重水素は星の内部では作れません。星は重水素を燃やして壊すだけです。宇宙のどこかで重水素を見つけたら、それはビッグバン起源の生き残りです。

<Example id="ex-deuterium-baryon" title="二つのまったく違う方法が同じ答えを出す">
遠方クェーサーの光を吸収する原始的なガス雲で重水素と水素の比を測ると $\mathrm{D}/\mathrm{H} = 2.5 \times 10^{-5}$ です。これを軽元素合成の計算に当てはめると、バリオンの密度パラメータとして

$$
\Omega_{\mathrm{b}} h^{2} = 0.022
$$

が得られます。一方、CMB の温度ゆらぎの角度パターンを解析すると、まったく独立に

$$
\Omega_{\mathrm{b}} h^{2} = 0.0224 \pm 0.0002
$$

が得られます。一方は宇宙誕生 3 分後の核反応、他方は 38 万年後の音波の振動です。使う物理も、使う望遠鏡も、まったく違います。それが小数第 3 位まで一致しました。

この値を実感できる数字に直します。ここで $\Omega_{\mathrm{b}}$ は臨界密度で割った密度パラメータ（<Ref to="physics/cosmology/dark-matter-and-dark-energy#def-critical-density" text="臨界密度と密度パラメータ" />）、$h$ は $H_0$ を $100\ \mathrm{km/s/Mpc}$ 単位で測った値です。$h = 0.67$ とすると $\Omega_{\mathrm{b}} = 0.022/0.67^2 = 0.049$、つまり普通の物質は宇宙全体のエネルギーの約 5 % しかありません（残り 95 % の正体は [ダークマターとダークエネルギー](/physics/cosmology/dark-matter-and-dark-energy) の話題です）。数密度でいえば、宇宙の平均は $1\ \mathrm{m^3}$ あたり水素原子 0.25 個です。
</Example>

まとめると次のようになります。バリオン密度を CMB の値に固定したうえで軽元素合成を計算し、観測と並べたものです。

| 元素 | 理論の予言 | 観測値 |
|---|---|---|
| $^4\mathrm{He}$ の質量比 $Y_p$ | $0.247$ | $0.245 \pm 0.003$ |
| $\mathrm{D}/\mathrm{H}$ | $2.5 \times 10^{-5}$ | $2.5 \times 10^{-5}$ |
| $^3\mathrm{He}/\mathrm{H}$ | $\sim 10^{-5}$ | 同程度 |
| $^7\mathrm{Li}/\mathrm{H}$ | $5 \times 10^{-10}$ | $1.6 \times 10^{-10}$ |

<Aside type="caution">
最後の行は合っていません。古い星の表面で測られるリチウム 7 の量は、予言の 3 分の 1 ほどしかないのです。これを**リチウム問題**といい、40 年近く解決していません。星の内部でリチウムが沈んで壊れているという説、原子核反応率の測定に誤りがあるという説、未知の粒子が関わっているという説などが競っています。三つの柱のうち二つが完璧で一つに穴がある、というのが 2020 年代の正直な現状です。
</Aside>

## 6. 三本の柱は何を支えているか

### 6.1. この理論は「殺せる」形をしている

理論の強さは「当たった予言の数」だけでなく「外れたら死ぬような予言をしたか」で測られます。その点でビッグバン理論は潔い理論です。次のどれか一つでも見つかれば、成り立たなくなります。

| もしこれが観測されたら | 帰結 |
|---|---|
| CMB のスペクトルが黒体からはっきり外れている | 致命的。熱平衡だった時代が存在しないことになる |
| 星の生成を差し引いてもヘリウム質量比が 20 % を大きく下回る天体がある | 致命的。<Ref to="prop-helium-quarter" /> の枠組みが崩れる |
| 宇宙の年齢より古い星が確実に見つかる | 致命的 |
| 赤方偏移 $z$ での CMB 温度が $2.7255(1+z)\ \mathrm{K}$ から外れる | 致命的。<Ref to="prop-blackbody-preserved" /> が否定される |
| 遠方の宇宙と近傍の宇宙で銀河や活動天体の種族が変わらない | 定常宇宙論と区別できなくなり、有力な証拠を一つ失う |

3 番目は実際に危機になりました。1990 年代、球状星団の年齢が $1/H_0$ より古く見えた時期があるのです。この矛盾は距離測定の改良とダークエネルギーの発見で解消しました。反証されかけて生き延びた経験があること自体が、この理論の健全さの証拠だと思います。

最後の行が定常宇宙論の敗因でした。「宇宙はいつどこを見ても同じ姿」と主張する以上、遠い（＝昔の）宇宙も近い宇宙も同じでなければなりません。ところが電波源やクェーサーを数えると、遠方ほど明らかに密度が高い。宇宙には歴史があったのです。

### 6.2. よくある三つの誤解

**「ビッグバンは空間のある一点で起きた爆発だ」** ——違います。<Ref to="cor-no-center" /> のとおり、一様な膨張には中心がありません。高温・高密度の状態は、空間のあらゆる場所で同時に起きていました。爆発が空間の**中**で広がったのではなく、空間そのものが伸びたのです。

**「宇宙の外側には何があるのか」** ——この理論は宇宙の外を語りません。観測できるのは光が届く範囲（観測可能な宇宙、すなわち <Ref to="physics/cosmology/age-and-size-of-the-universe#def-particle-horizon" text="粒子的地平線" /> の内側）だけで、その外がどうなっているか、全体が有限か無限かは決着していません。詳しくは [宇宙の果てと年齢](/physics/cosmology/age-and-size-of-the-universe) を参照してください。

**「ビッグバン理論は宇宙の始まりを説明した」** ——していません。三つの柱が語ったのは、宇宙誕生の 1 秒後から 38 万年後、そして現在にかけての話です。それより前、特に $t = 0$ の極限では一般相対性理論と量子論の両方が必要になり、そこには誰も持っていない理論が要ります。この誠実さを弱点だと感じる人もいますが、私は逆だと思います。分かることと分からないことの境界を、はっきり示せているのですから。

### 6.3. 三つの柱が交わるところ

第一の柱（膨張）は宇宙が過去に小さかったと言い、第二の柱（CMB）は過去に熱平衡の高温状態があったと言って温度と赤方偏移の関係まで当て、第三の柱（元素比）は $1$ 秒から $3$ 分という具体的な時刻の物理から元素の量を再現しました。

そして三つは互いを縛ります。第二の柱から出るバリオン密度と、第三の柱から出るバリオン密度が一致すること（<Ref to="ex-deuterium-baryon" />）。第一の柱から出る宇宙年齢と、最古の星の年齢が矛盾しないこと。この「別々の道から来て同じ数字に出会う」という現象が、単なるつじつま合わせと本物の理論とを分けます。

だからといって、ビッグバン理論が完成しているわけではありません。リチウム問題は残り、ハッブル・テンションは深まり、宇宙の 95 % は正体不明です。「本当にあったのか」への答えは「高温・高密度の時代は確かにあった。ただしその前と、その中身の大半は、まだ分かっていない」というものです。

## 7. 演習

<Exercise id="exr-redshift-distance" difficulty="易">
ある銀河のスペクトルで、静止波長 $656.3\ \mathrm{nm}$ の $\mathrm{H}\alpha$ 線が $721.9\ \mathrm{nm}$ に観測された。$H_0 = 70\ \mathrm{km/s/Mpc}$、$c = 3.0 \times 10^{5}\ \mathrm{km/s}$ として、この銀河の赤方偏移と、地球からのおよその距離を光年で求めよ。$1\ \mathrm{Mpc} = 3.26 \times 10^{6}$ 光年とする。

<Solution>
<Ref to="def-redshift" /> より

$$
z = \frac{721.9 - 656.3}{656.3} = \frac{65.6}{656.3} = 0.100
$$

$z = 0.1$ は $1$ に比べて十分小さいので、<Ref to="rem-redshift-stretch" /> のとおり速度として読めます。

$$
v \approx cz = 3.0 \times 10^{5} \times 0.100 = 3.0 \times 10^{4}\ \mathrm{km/s}
$$

<Ref to="prop-hubble-law" /> の法則 $v = H_0 d$ から

$$
d = \frac{3.0 \times 10^{4}\ \mathrm{km/s}}{70\ \mathrm{km/s/Mpc}} = 4.3 \times 10^{2}\ \mathrm{Mpc}
$$

光年に直すと $4.3 \times 10^{2} \times 3.26 \times 10^{6} = 1.4 \times 10^{9}$ 光年、約 14 億光年です。

（注意：$z = 0.1$ 程度になると膨張の歴史の影響が数 % 現れ始めるので、これは目安の値です。）
</Solution>
</Exercise>

<Exercise id="exr-cmb-temperature" difficulty="標準">
CMB の現在の温度は $T_0 = 2.7255\ \mathrm{K}$ である。

(1) 宇宙の温度が水の沸点 $373\ \mathrm{K}$ だった時代の赤方偏移 $z$ を求めよ。

(2) その時代、宇宙の体積は現在の何分の一だったか。

(3) その時代の CMB のピーク波長を求めよ。ウィーンの変位則の定数は $2.898 \times 10^{-3}\ \mathrm{m \cdot K}$ とする。

<Solution>
(1) <Ref to="prop-blackbody-preserved" /> より $T = T_0(1+z)$ なので

$$
1 + z = \frac{373}{2.7255} = 136.9,\qquad z = 135.9 \approx 136
$$

(2) 長さは $1/(1+z) = 1/136.9$ 倍なので、体積は

$$
\left(\frac{1}{136.9}\right)^{3} = \frac{1}{2.57 \times 10^{6}}
$$

約 260 万分の一です。同じ物質が 260 万分の一の体積に入っていたのですから、密度はその分だけ高かったことになります。

(3) ウィーンの変位則から

$$
\lambda_{\max} = \frac{2.898 \times 10^{-3}\ \mathrm{m \cdot K}}{373\ \mathrm{K}} = 7.8 \times 10^{-6}\ \mathrm{m}
$$

約 $7.8\ \mu\mathrm{m}$、赤外線です。<Ref to="ex-cmb-peak" /> で求めた現在の $1.06\ \mathrm{mm}$ のちょうど $1/136.9$ になっていることを確かめてください。波長がスケール因子とともに伸びるという <Ref to="rem-redshift-stretch" /> の主張と整合しています。
</Solution>
</Exercise>

<Exercise id="exr-different-ratio" difficulty="難">
もし中性子の平均寿命が実際よりずっと長く、重水素のボトルネックのあいだに中性子が一つも崩壊しなかったとする。すなわち凍結時の比 $n_n/n_p = 1/5$ がそのまま合成開始時まで保たれたとする。

(1) このときのヘリウム質量比 $Y$ を求めよ。

(2) 逆に、観測値 $Y_p = 0.245$ を再現するには合成開始時の $n_n/n_p$ がいくつでなければならないか。

(3) (1) と (2) の結果から、ヘリウム質量比の観測が中性子の寿命について何を語るか述べよ。

<Solution>
(1) <Ref to="prop-helium-quarter" /> の一般式に $n_n/n_p = 1/5 = 0.2$ を代入します。

$$
Y = \frac{2 \times 0.2}{1 + 0.2} = \frac{0.4}{1.2} = 0.333
$$

約 33 % です。観測値 24.5 % より 9 ポイントも高く、これは観測誤差 $\pm 0.003$ に比べてはるかに大きな差です。この宇宙は明確に否定されます。

(2) $r = n_n/n_p$ とおいて $Y = 2r/(1+r) = 0.245$ を解きます。

$$
2r = 0.245(1 + r) \quad\Longrightarrow\quad 2r - 0.245 r = 0.245 \quad\Longrightarrow\quad 1.755\, r = 0.245
$$

$$
r = \frac{0.245}{1.755} = 0.1396 \approx \frac{1}{7.2}
$$

<Ref to="ex-neutron-decay" /> で崩壊を入れて求めた $1/7$ とよく合います。

(3) 凍結時の $1/5$ から合成開始時の $1/7$ への目減りは、中性子のベータ崩壊が原因でした（<Ref to="ex-neutron-decay" />）。したがってヘリウム質量比の観測値は、「中性子の寿命が、凍結から合成開始までの待ち時間（約 250 秒）と同じくらいの桁である」ことを要求します。実験室で測られた平均寿命は $880$ 秒で、まさにその桁です。

もし寿命が $100$ 秒だったら中性子はほとんど崩壊しきってヘリウムはごくわずかしかできず、$10^{6}$ 秒だったら $Y \approx 0.33$ になっていました。私たちの宇宙が水素とヘリウムを $3:1$ で持っているのは、地上の実験室で測れる素粒子の性質のおかげなのです。
</Solution>
</Exercise>

## 参考文献

- 佐藤勝彦『宇宙論入門 ― 誕生から未来へ』岩波新書、2008 — 初期宇宙と元素合成の章。
- スティーヴン・ワインバーグ『宇宙創成はじめの三分間』小尾信彌 訳、ちくま学芸文庫、2008（原著 *The First Three Minutes*, Basic Books, 1977）— この記事の第 5 節にあたる内容を一般向けに書いた古典。
- Barbara Ryden, *Introduction to Cosmology*, 2nd ed., Cambridge University Press, 2017 — 宇宙膨張・宇宙マイクロ波背景放射・ビッグバン元素合成の各章。大学初年度から読める標準的教科書。
- A. A. Penzias and R. W. Wilson, "A Measurement of Excess Antenna Temperature at 4080 Mc/s", *Astrophysical Journal* 142 (1965), 419 — 宇宙マイクロ波背景放射の発見論文。
- Planck Collaboration, "Planck 2018 results. VI. Cosmological parameters", *Astronomy & Astrophysics* 641 (2020), A6. [arXiv:1807.06209](https://arxiv.org/abs/1807.06209) — $H_0$、バリオン密度、CMB ゆらぎの現在の標準的な測定値。
- Particle Data Group, "Big-Bang Nucleosynthesis" (Review of Particle Physics), [https://pdg.lbl.gov/](https://pdg.lbl.gov/) — 軽元素の予言値と観測値、リチウム問題の現状。

## Appendix: この記事で使った数値

**基本定数と換算。** 計算を自分で追い直すときのために、使った数値をまとめておきます。

| 量 | 値 |
|---|---|
| ハッブル定数 $H_0$ | $70\ \mathrm{km/s/Mpc}$（本文では代表値として使用） |
| $1\ \mathrm{Mpc}$ | $3.086 \times 10^{19}\ \mathrm{km} = 3.26 \times 10^{6}$ 光年 |
| $1$ 年 | $3.156 \times 10^{7}\ \mathrm{s}$ |
| CMB 温度 $T_0$ | $2.7255\ \mathrm{K}$ |
| CMB 光子数密度 | $411\ \mathrm{cm^{-3}}$ |
| ウィーンの変位則の定数 | $2.898 \times 10^{-3}\ \mathrm{m \cdot K}$ |
| 温度とエネルギーの換算 | $kT = 1\ \mathrm{MeV} \leftrightarrow T = 1.16 \times 10^{10}\ \mathrm{K}$ |
| 中性子・陽子の質量差 | $1.29\ \mathrm{MeV}$ |
| 中性子の平均寿命 $\tau$ | $880\ \mathrm{s}$ |
| 重水素の結合エネルギー | $2.22\ \mathrm{MeV}$ |
| バリオン・光子比 $\eta$ | $6 \times 10^{-10}$ |

**感度の違い。** <Ref to="ex-neutron-decay" /> の凍結温度 $0.8\ \mathrm{MeV}$ は、丁寧な計算では $0.7$ から $0.9$ のあいだで揺れますが、$Y$ への影響は数 % にとどまります。指数関数の肩に乗った量なのに影響が小さいのは、そのあとの中性子崩壊が「詰め込みすぎ」を自動的に削ってくれるからです。逆にバリオン・光子比 $\eta$ は重水素の残存量に鋭く効き、$\eta$ が 2 倍になると $\mathrm{D}/\mathrm{H}$ はおよそ 3 分の 1 になります。重水素がバリオン計として使えるのは、この感度の高さのおかげです。
