# N_τ 評価と圧力の線形上界：Nelson の対称性と転送行列のトレースによる P(φ)₂ の評価 I

> 周期境界のトーラス上の P(φ)₂ 分配関数を転送行列のトレースとして書き、時間と空間を入れ替える Nelson の対称性とトレースの劣乗法性から、圧力が体積に線形に上から抑えられること（Fröhlich の評価 I）を証明する。系としてハミルトニアンの線形下界と N_τ 評価を導く。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/constructive-qft/n-tau-pressure-bound

## 0. この記事の要点

広い空間に場が詰まった系の「全体の重みの和」は、空間が広がるほど急に大きくなりそうに思えます。この記事では、その対数が体積に比例する程度でしか増えないこと（体積を 2 倍にしても、対数が高々 2 倍程度にしかならないこと）を示します。鍵になるのは、時間と空間の向きを入れ替えても同じ量が得られるという対称性と、作用素のトレース（対角成分の和）が満たす不等式の 2 つで、大きな系を小さな系に帰着させる道筋が分かるのがこの記事の収穫です。

- 周期境界のトーラス $T=S_\beta\times S_L$ 上の自由場を空間方向の Fourier モードに分けると、各モードは周期 $\beta$ の Ornstein–Uhlenbeck 過程（平均 $0$ に引き戻されながら揺れる確率過程）で、その有限次元分布は Mehler 核を輪の形につないだものです（<Ref to="lem-periodic-mehler" />）。これから、空間方向に切断した $P(\phi)_2$ の[分配関数](/physics/qft/path-integral-quantization#def-partition-function)が**転送行列のトレース**として書けます（<Ref to="prop-discrete-trace" />）。
- **Nelson の対称性**: トーラスの 2 つの座標を入れ替えても分配関数は変わりません（<Ref to="thm-nelson-symmetry" />）。転送行列の言葉では、「長さ $L_1$ の円周上の系を時間 $L_0$ だけ発展させたトレース」と「長さ $L_0$ の円周上の系を時間 $L_1$ だけ発展させたトレース」が（自由場の正規化を除いて）等しい、という主張です。
- 正の作用素 $B$ では $\mathrm{tr}\,B^n\le(\mathrm{tr}\,B)^n$ なので、時間方向の長いトーラスは時間幅 $2$ のトーラスで抑えられます（<Ref to="lem-time-submult" />）。Nelson の対称性で向きを変えてもう一度使うと、任意のトーラスが $2\times2$ のトーラスに帰着します。
- こうして、[チェッカーボード評価](/physics/constructive-qft/pphi2-infinite-volume)（箱ごとに分けて評価する前章の手法）・固定体積での外場つき Nelson 評価（<Ref to="prop-nelson-source" />）と合わせて、**評価 I** $\log Z_T(h)\le c\int_T(1+|h|^p)$ が証明されます（<Ref to="thm-estimate-one" />）。前章で仮定していた評価です。
- 系として、空間切断したハミルトニアン（エネルギーを表す作用素）の**線形下界** $H\ge-bL$（<Ref to="thm-linear-lower-bound" />）と、[数作用素](/physics/fock-space/boson-fock-space#def-number-operator)型の **$N_\tau$ 評価** $N_\tau\le a(H+bL)$（<Ref to="thm-n-tau" />）が、体積と切断によらない定数で従います。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **分配関数**: 系のとりうる状態すべてにわたって重み $e^{-(\text{作用})}$ を足し合わせた（積分した）量。→ [分配関数](/physics/qft/path-integral-quantization#def-partition-function)
- **トレース**: 作用素を行列のように見たときの対角成分の和。正の作用素では固有値の和に等しい。
- **正規直交基底**: 互いに直交する長さ $1$ のベクトルで空間全体を張るもの。→ [正規直交基底](/mathematics/functional-analysis/hilbert-spaces#def-orthonormal-system)
- **Wick 冪**: 場の冪から、自己相関に由来する発散分をあらかじめ引いたもの。→ [Wick 冪](/physics/fock-space/gaussian-measures-q-space#def-wick-product)
- **チェッカーボード評価**: 体積に一様な評価を、箱ごとの量の幾何平均で抑える前章の手法。→ [前章](/physics/constructive-qft/pphi2-infinite-volume)

</Aside>

## 1. 動機

[P(φ)₂ の無限体積極限の章](/physics/constructive-qft/pphi2-infinite-volume)では、鏡映正値性とチェッカーボード評価から体積に一様な φ 評価を導きました。その入力が **評価 I**、すなわち周期境界の分配関数 $Z_T(h)=\int e^{-U_T+\phi(h)}d\mu_{C_T}$ について $\log Z_T(h)\le c\int_T(1+|h|^p)$ という、圧力の体積に比例する上界でした。前章ではこれを主張として仮定しました。

Nelson の評価は固定した体積では $e^{-U}$ の可積分性を与えますが、その証明では切断 $\kappa$ を体積に合わせて選ぶので、$\log Z$ の上界は体積に比例しません。$e^{-U_T}=\prod_\beta e^{-U_{\Delta_\beta}}$ と単位正方形ごとに分けても、自由場が箱をまたいで相関しているので、期待値は箱ごとの積になりません。チェッカーボード評価は積を幾何平均で抑えますが、右辺に現れるのはまた同じ形の周期的な分配関数で、体積を減らしてはくれません。

ここで使うのが**転送行列**です。時間方向に周期 $\beta$ をもつトーラスの分配関数は、空間（長さ $L$ の円周）の上の量子系の「熱的なトレース」$\mathrm{tr}\,e^{-\beta H_L}$ を自由場のトレースで割ったものです。トレースには、量子統計力学ではよく知られた性質
$$
\mathrm{tr}\,e^{-n\beta H}\le\bigl(\mathrm{tr}\,e^{-\beta H}\bigr)^n
$$
があり、**時間方向に長いトーラスは短いトーラスの冪で抑えられます**。これだけでは空間方向の長さ $L$ が残りますが、Euclid 不変性によって時間と空間を入れ替えれば（Nelson の対称性）、同じ議論を空間方向にも使えて、任意のトーラスが一定の大きさのトーラスに帰着します。一定の大きさのトーラスでは Nelson の評価がそのまま使えます。

真空期待値 $\langle\Omega,e^{-\beta H}\Omega\rangle$ では不等式の向きが逆になる（短い時間は長い時間の評価を与えない）ことに注意してください。周期境界、すなわちトレースを使うことが本質的です。

（この章の続きは購入者向けです。）
