# クラスター展開と Kotecký–Preiss の判定条件：ポリマー系の対数を木で抑える

> ポリマー系の分配関数の対数を Ursell 関数で展開し、木グラフ恒等式と根付き木の再帰で Kotecký–Preiss 条件の下での絶対収束を証明する。Brydges–Kennedy の森公式、高温 Ising の相関の指数減衰、格子ゲージ理論の強結合展開に応用する。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/constructive-qft/cluster-expansion

## 0. この記事の要点

小さな部品がたくさん集まった系を調べるとき、部品の組合せの数は系が大きくなるほど爆発的に増えます。それでも、離れた部品どうしの影響がほとんど打ち消し合うなら、全体の性質は「近くの部品が作る小さな塊」の和として、系の大きさによらずに評価できるはずです。この記事は、その直感を、塊の重みが小さいという条件のもとで厳密な不等式にする方法（クラスター展開）を扱います。読み終えると、高温の磁性体で遠く離れたスピンの相関が指数的に弱まることを、体積によらない評価で示せるようになります。

- 格子上の多くの模型は、[分配関数](/physics/thermodynamics/canonical-ensemble#def-canonical-ensemble)を「互いに両立する（重ならない）ポリマーの族についての重みの積の和」$\Xi=\sum_\Gamma\prod_{\gamma\in\Gamma}w(\gamma)$ に書き直せます。高温展開、強結合展開、低温の輪郭展開はすべてこの形です。ここでポリマーとは、格子上の小さな図形（辺のつながった塊など）のことです。
- $\log\Xi$ は、両立しないポリマーが連結につながった列（クラスター）についての級数に展開でき、係数は連結グラフについての符号付き和である Ursell 関数 $\varphi^{\mathrm T}$（塊の「つながり具合」を測る数）です。これがクラスター展開です。
- 連結グラフの符号付き和は全域木の数で抑えられます（木グラフ不等式）。本章では、辺に全順序を入れて連結部分グラフの集合を「木から始まる区間」に分ける方法で、これを等式の形で証明します。
- Kotecký–Preiss の判定条件 $\sum_{\gamma\not\sim\gamma'}|w(\gamma)|e^{\mathfrak a(\gamma)}\le\mathfrak a(\gamma')$ のもとでクラスター展開は絶対収束し、評価は体積によりません（<Ref to="thm-kotecky-preiss" />）。証明は根付き木の深さについての帰納法です。
- Brydges–Kennedy の森公式は、辺の変数の補間によって連結部分を木の和として直接書く公式で、連続スピン系や場の理論のクラスター展開の標準的な道具です。
- 応用として、高温の Ising 模型の 2 点相関が体積によらず指数減衰すること（<Ref to="thm-high-temperature-decay" />）、格子ゲージ理論の強結合展開の収束、Fradkin–Shenker の相補性の証明の完結を扱います。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **分配関数**: 状態ごとの重みを全部足した量で、確率の規格化定数にあたる。→ [分配関数](/physics/thermodynamics/canonical-ensemble#def-canonical-ensemble)
- **Ising 模型の相関 $\langle\sigma_x\sigma_y\rangle$**: 2 点のスピンが同じ向きにそろいやすい度合い。→ [相関不等式](/physics/constructive-qft/correlation-inequalities)
- **Griffiths の第 1 不等式**: 強磁性 Ising 模型で 2 点相関が $0$ 以上になるという不等式（§6.1 の非負性に使う）。→ [相関不等式](/physics/constructive-qft/correlation-inequalities)
- **連結グラフと全域木**: どの 2 頂点も辺をたどって結べるグラフが連結で、全頂点を閉路なしでつなぐ辺の部分集合が全域木。
- **冪級数の収束**: $\sum a_n\lambda^n$ が $|\lambda|$ の小さいところで収束し、そこで正則関数を与えること。

</Aside>

## 1. 動機

構成的場の理論では、無限体積の極限と、そこでの相関の減衰（質量ギャップ）を、体積によらない評価から引き出す必要があります。有限体積の分配関数 $Z_\Lambda$ は体積について指数的に大きくなるので、$Z_\Lambda$ そのものではなく $\log Z_\Lambda$ を $|\Lambda|$ に比例する項と境界の補正に分けて評価しなければなりません。統計力学の Mayer 展開（気体の分配関数を、粒子どうしの相互作用でつながった塊ごとに展開する方法）以来、この「対数をとって局所的な項の和に分ける」操作がクラスター展開と呼ばれてきました。

素朴な摂動級数は $Z_\Lambda$ の展開であり、項の数が体積とともに爆発するため、そのままでは無限体積で意味を持ちません。対数をとると、離れた場所の寄与は打ち消し合い、残るのは「連結した」寄与だけになります。これを組合せ論的に表すのが Ursell 関数で、その大きさを木の数で抑えれば、局所的な小ささ（高温、強結合、弱結合）が体積によらない収束に変わります。

格子場の理論の巻では、Osterwalder–Seiler・Fradkin–Shenker の相補性の定理（<Ref to="physics/lattice-field-theory/lattice-higgs-yukawa#thm-fradkin-shenker" />）を、Kotecký–Preiss の条件（<Ref to="physics/lattice-field-theory/lattice-higgs-yukawa#lem-kotecky-preiss" />）を主張だけ借りて証明しました。本章ではその条件の証明を与え、クラスター展開を自己完結した道具にします。[P(φ)₂ 模型の構成](/physics/constructive-qft/p-phi-2) での Glimm–Jaffe–Spencer の展開も、ここで述べる骨組みの上に立っています。

（この章の続きは購入者向けです。）
