# 局所ネットのモジュラー理論：Borchers の定理・くさび領域の Bisognano–Wichmann・相対エントロピー

> 正エネルギーの並進が von Neumann 環を自身に移すときモジュラー群が並進を拡大することを示す Borchers の定理を証明し、くさび領域で冨田–竹崎のモジュラー群が並進にブーストとして働くことを導く。自由場で Bisognano–Wichmann の定理を完全に証明し、Araki の相対エントロピーの単調性と下半連続性を変分公式から示す。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/axiomatic-qft/modular-theory-in-qft

## 0. この記事の要点

真空の中に「ある領域だけを観測する人」を考えると、その人にとって真空は、領域の形を決めるだけで自動的に定まる「時間の流れ」をもつ状態になります。この時間は、状態と観測量の代数だけから抽象的に作られるのですが、くさび形の領域では、なんと Lorentz ブーストという時空の幾何学的な動きに一致します。この記事は、その仕組みを、正エネルギーの並進という素朴な性質から出発して証明し、最後に 2 つの状態の「区別のつきにくさ」を測る量（相対エントロピー）が領域を小さくすると減ることまで示します。

- **Borchers の定理**: von Neumann 環 $\mathcal{M}$ と巡回分離ベクトル $\Omega$、正の生成子をもつユニタリ群 $U(s)$ が $U(s)\Omega=\Omega$, $U(s)\mathcal{M}U(s)^*\subset\mathcal{M}$（$s\ge0$）を満たせば、モジュラー対象は $\Delta^{it}U(s)\Delta^{-it}=U(e^{-2\pi t}s)$, $JU(s)J=U(-s)$ を満たします。証明は 2 変数の解析接続を周期関数にして Liouville の定理で閉じます。
- [くさび領域](/physics/axiomatic-qft/haag-kastler#def-causal-regions) $W_R=\lbrace x^1>|x^0|\rbrace$ の局所環に適用すると、くさびを自身に移す 2 本の光的な並進から、**モジュラー群が並進にブーストとして働き、モジュラー共役が反転 $j$ として働く**ことが、局所ネットの公理だけから従います。Bisognano–Wichmann の定理の「並進の部分」はこれで決まります。
- 自由スカラー場では、1 粒子の波動関数をブーストの複素角 $i\pi$ まで解析接続し、[Weyl 作用素](/physics/fock-space/segal-field-weyl#def-weyl-operator)について [KMS 条件](/mathematics/operator-algebras/tomita-takesaki#def-kms-condition)（熱平衡状態を特徴づける関係式）を確かめ、竹崎の一意性定理を使うことで、**Bisognano–Wichmann の定理** $\Delta^{it}=U(\Lambda_1(-2\pi t))$, $J=\Theta U(R_1(\pi))$ とくさびの双対性を完全に証明します。
- [Araki の相対エントロピー](/mathematics/operator-algebras/tomita-takesaki#def-araki-relative-entropy)は、レゾルベントの 2 次形式の**変分公式** $\langle\xi_\psi,(\Delta_{\varphi,\psi}+t)^{-1}\xi_\psi\rangle=\sup_x[2\mathrm{Re}\,\psi(x)-\varphi(xx^*)-t\psi(x^*x)]$ により状態だけで書けます。ここから**ベクトル代表に依らないこと**、部分環への制限についての**単調性**、弱 * 位相についての**下半連続性**が一度に出ます。
- 局所ネットでは、単調性は「領域を小さくすると状態の区別がつきにくくなる」ことを意味し、量子情報的な場の理論（エンタングルメント、Bekenstein 型の不等式）の出発点になります。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **巡回分離ベクトル**: 環 $\mathcal{M}$ を掛けたものが全体で稠密になり（巡回）、かつ $\mathcal{M}$ の元で $0$ にするものが $0$ しかない（分離）ベクトルのこと。→ [冨田–竹崎理論とモジュラー群](/mathematics/operator-algebras/tomita-takesaki)
- **モジュラー作用素 $\Delta$ とモジュラー共役 $J$**: 巡回分離ベクトルから $x\Omega\mapsto x^*\Omega$ を極分解して得られる 2 つの作用素。→ [モジュラー作用素](/mathematics/operator-algebras/tomita-takesaki#def-modular-operator)
- **KMS 条件**: 状態が熱平衡であることを、相関関数の解析性で言い表した条件。→ [KMS 条件](/mathematics/operator-algebras/tomita-takesaki#def-kms-condition)
- **くさび領域**: 時空のうち $x^1>|x^0|$ を満たす、ある方向に開いた領域。→ [因果的補集合・二重錐・楔](/physics/axiomatic-qft/haag-kastler#def-causal-regions)
- **Weyl 作用素**: 場を指数の肩に載せたユニタリ作用素 $e^{i\Phi(\xi)}$。→ [Weyl 作用素](/physics/fock-space/segal-field-weyl#def-weyl-operator)

</Aside>

## 1. 動機

[Haag–Kastler 公理と局所ネット](/physics/axiomatic-qft/haag-kastler) では、真空 $\Omega$ が局所 von Neumann 環に対し巡回的かつ分離的であることから冨田–竹崎のモジュラー対象 $\Delta$, $J$ が定まり、くさび領域ではそれが Lorentz ブーストと PCT 反転で書ける、という Bisognano–Wichmann の定理を主張だけ述べました（<Ref to="physics/axiomatic-qft/haag-kastler#thm-bisognano-wichmann" />）。モジュラー対象は状態と環だけから抽象的に作られるものなので、それが時空の幾何で書けるというのは驚くべき事実です。その帰結として、真空はくさびに一様加速で閉じ込められた観測者には温度 $a/2\pi$ の熱平衡状態に見えます（Unruh 効果）。

1990 年代に Borchers は、この幾何学的な性質の核心が「正エネルギー」と「並進でくさびが自身に入る」という 2 つの性質だけから来ていることを示しました。本章はまず Borchers の定理を完全に証明し、それをくさびに適用して、モジュラー群が並進にブーストとして作用することを公理から導きます。次に、自由スカラー場で Bisognano–Wichmann の定理を完全に証明します。一般の Wightman 理論での証明は Bargmann–Hall–Wightman の定理（[Wightman 関数の解析性](/physics/axiomatic-qft/wightman-analyticity) の <Ref to="physics/axiomatic-qft/wightman-analyticity#thm-bhw" />）を使う長いもので、本章では筋道を述べるにとどめます（<Ref to="rem-bw-general" />）。

最後に、量子情報の言葉で局所性を論じるときの基本量である Araki の相対エントロピーを扱います。[冨田–竹崎理論とモジュラー群](/mathematics/operator-algebras/tomita-takesaki) では定義（<Ref to="mathematics/operator-algebras/tomita-takesaki#def-araki-relative-entropy" />）と非負性だけを示しました。ここでは変分公式を証明し、そこから単調性と下半連続性を導きます。

（この章の続きは購入者向けです。）
