# トレースクラス摂動と Kato–Rosenblum の定理：絶対連続スペクトルの安定性とスペクトルシフト関数

> トレースクラス摂動で波動作用素が存在し完全になる Kato–Rosenblum の定理と、レゾルベント差の版である Birman–Kuroda の定理を扱う。Weyl–von Neumann の定理との対比で絶対連続スペクトルの安定性の限界を示し、スペクトルシフト関数と Krein のトレース公式を述べる。
> https://rikai.mugen-giken.com/mathematics/spectral-scattering/trace-class-scattering

## 0. この記事の要点

量子力学の粒子の動きを決める作用素 $H_0$ に、少しだけ手を加えた作用素 $H$ を考えます。手を加えても粒子の「自由に飛び去る成分」の振る舞いは変わらない、と言えるのはどんなときでしょうか。この記事では、手の加え方が十分小さい（トレースクラスと呼ばれる意味で小さい）なら変わらないこと、そして「小さい」の意味を少し緩めると変わってしまうことを、証明つきで学びます。読み終えると、摂動の大きさの測り方によって何が保たれ何が壊れるかを説明できるようになります。

- **Kato–Rosenblum の定理**: $H=H_0+V$ で $V$ がトレースクラスの自己共役作用素なら、[波動作用素](/mathematics/spectral-scattering/wave-operators#def-wave-operators) $\Omega_\pm(H,H_0)$ は存在して完全です。とくに $H$ と $H_0$ の[絶対連続](/mathematics/functional-analysis/spectrum-classification#def-spectral-subspaces)部分はユニタリ同値で、$\sigma_{\mathrm{ac}}(H)=\sigma_{\mathrm{ac}}(H_0)$ です。$H_0$ の具体的な構造は何も使いません。
- 完全性は存在から自動的に出ます。$H$ と $H_0$ の役割は対称なので $\Omega_\pm(H_0,H)$ も存在し、連鎖律から $\mathrm{Ran}\,\Omega_\pm(H,H_0)\supset\mathcal{H}_{\mathrm{ac}}(H)$ が従います。
- 証明の核は、スペクトル密度（スペクトル測度が Lebesgue 測度に対してもつ密度）が有界なベクトル $\varphi$ について $\int|\langle\psi,e^{-itH_0}\varphi\rangle|^2\,\mathrm{d}t\le2\pi\|\mathrm{d}\mu_\varphi/\mathrm{d}\lambda\|_\infty\|\psi\|^2$ が成り立つことです。Hilbert–Schmidt 作用素はこの意味で時間について 2 乗可積分になり、Kato の平滑摂動の理論につながります。
- **Birman–Kuroda の定理**: レゾルベント（$(H-z)^{-1}$ のこと）の差がトレースクラスなら同じ結論が成り立ちます。$\mathbb{R}^3$ の $-\Delta+V$ で $V\in L^1\cap L^\infty$ ならこの仮定が満たされます。
- **Weyl–von Neumann の定理**: 任意の自己共役作用素は、ノルムがいくらでも小さい Hilbert–Schmidt 摂動で純点スペクトルにできます。絶対連続スペクトルを保つ摂動の類として、トレースクラスは Schatten クラスの中で最良です。
- トレースクラス摂動には**スペクトルシフト関数**（摂動でスペクトルがどれだけ動いたかを測る関数）$\xi\in L^1(\mathbb{R})$ が対応し、**Krein のトレース公式** $\mathrm{tr}(f(H)-f(H_0))=\int f'(\lambda)\xi(\lambda)\,\mathrm{d}\lambda$ が成り立ちます。有限次元では $\xi$ は固有値の数え上げ関数の差です。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **波動作用素**: 相互作用のある時間発展と自由な時間発展の差 $e^{itH}e^{-itH_0}$ を、$t\to\pm\infty$ の強極限でとったもの。→ [波動作用素](/mathematics/spectral-scattering/wave-operators#def-wave-operators)
- **完全性**: 波動作用素の値域が、絶対連続部分空間 $\mathcal{H}_{\mathrm{ac}}(H)$ と一致すること。→ [漸近完全性](/mathematics/spectral-scattering/wave-operators#def-asymptotic-completeness)
- **絶対連続部分**: スペクトル測度が Lebesgue 測度に関して絶対連続になるベクトル全体の作る部分空間。→ [絶対連続](/mathematics/functional-analysis/spectrum-classification#def-spectral-subspaces)
- **特異値とトレースクラス**: コンパクト作用素 $K$ について $K^*K$ の固有値の平方根が特異値で、その和が有限なものがトレースクラス。→ [特異値](/mathematics/functional-analysis/compact-operators#def-singular-values)
- **関数計算**: 自己共役作用素 $H$ と関数 $f$ から作用素 $f(H)$ を作る手続き。→ [関数計算](/mathematics/functional-analysis/spectral-theorem-unbounded#def-functional-calculus)

</Aside>

## 1. 動機

[前章](/mathematics/spectral-scattering/wave-operators) では、Cook の方法で波動作用素の存在を示しました。存在の証明は自由運動の波束がポテンシャルから離れていくことの評価で、比較的やさしい部分です。難しいのは完全性 $\mathrm{Ran}\,\Omega_\pm=\mathcal{H}_{\mathrm{ac}}(H)$ で、これは相互作用のある時間発展 $e^{-itH}$ について何かを知らなければ示せません。

この章で扱うのは、$H_0$ と $H$ の「差が小さい」ことだけから完全性を導く抽象的な方法です。「小さい」の意味が肝心で、自然な候補は次の 3 つです。

1. $V=H-H_0$ がコンパクト。このとき本質スペクトルは変わりません（Weyl の定理）。
2. $V$ が Hilbert–Schmidt、より一般に Schatten クラス $\mathcal{S}_p$（$p\gt1$）に属する。
3. $V$ がトレースクラス $\mathcal{S}_1$ に属する。

結論を先に言うと、絶対連続スペクトルが保たれるのは 3 の場合で、1 と 2 では保たれません。この章ではまず 3 の場合の Kato–Rosenblum の定理を述べてその仕組みを説明し、次に Schrödinger 作用素に使える形（Birman–Kuroda の定理）に拡げ、最後に 2 で何が壊れるか（Weyl–von Neumann の定理）と、トレースクラス摂動に付随する不変量（スペクトルシフト関数）を扱います。

（この章の続きは購入者向けです。）
