# 多体系と HVZ 定理：クラスター分解・IMS 局所化・束縛状態の存在

> N 体シュレーディンガー作用素の重心分離とクラスター分解を定義し、本質スペクトルの下端が 2 クラスターしきい値で決まる HVZ 定理を Ruelle–Simon の分割と IMS 局所化で証明する。H⁻ の束縛状態、Zhislin の定理、Efimov 効果も扱う。
> https://rikai.mugen-giken.com/mathematics/spectral-scattering/hvz-theorem

## 0. この記事の要点

ヘリウム原子のように電子が複数ある系では、電子どうしが反発し合うため、1 個の電子だけを扱う場合と同じ手では「どのエネルギーで粒子が遠くへ逃げられるか」を調べられません。この記事は、粒子をいくつかの塊に分けて考えることで、逃げられるエネルギーの下限が「系を 2 つに引き裂く最小のエネルギー」で決まることを示します。読み終えると、多体系で連続スペクトルがどこから始まるかを、塊の分け方から読み取れるようになります。

- $N$ 個の粒子のハミルトニアンは重心運動と内部運動に分かれます。重心運動は自由粒子なので全ハミルトニアンは固有値を持たず、スペクトル理論の対象は重心を除いた**内部ハミルトニアン** $H$ です。
- 粒子の集合を互いに遠く離れた塊（クラスター）に分ける**クラスター分解** $a$ ごとに、クラスター間の相互作用を捨てた部分系ハミルトニアン $H^a$ が定まります。2 つの塊への分解について $\inf\sigma(H^a)$ の最小値を**しきい値** $\Sigma$ と呼びます。
- **HVZ 定理**（Hunziker–van Winter–Zhislin）: 対ポテンシャルが $-\Delta$ に関して[相対コンパクト](/mathematics/functional-analysis/spectrum-classification#def-relatively-compact)なら $\sigma_{\mathrm{ess}}(H)=[\Sigma,\infty)$ です。物理的には「系を 2 つに引き裂いて、ばらばらに遠ざけるのに必要な最小エネルギー」から上が連続スペクトルになる、という主張です。
- 証明は 2 方向です。$[\Sigma,\infty)\subset\sigma_{\mathrm{ess}}$ はクラスターを遠ざける[Weyl 列](/mathematics/functional-analysis/spectrum-classification#def-weyl-sequence)（固有値でなくても近似的に固有値のように振る舞う列）で、逆の包含は Ruelle–Simon の 1 の分割と **IMS 局所化公式**（波動関数を場所ごとに切り分けてもエネルギーがほとんど変わらないことを表す等式）で示します。後者では、遠方では必ずどれかの 2 クラスター分解のクラスター間距離が大きいという幾何が効きます。
- 応用として、水素陰イオン $\mathrm{H}^-$ が束縛状態を持つことを、試行関数の厳密な計算で示します。中性原子が無限個の束縛状態を持つ **Zhislin の定理**と、2 体共鳴から無限個の 3 体束縛状態が生じる **Efimov 効果**も述べます。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **相対コンパクト**: $K$ が $A$ に関して相対コンパクトとは、$K(A+1)^{-1}$ のような積がコンパクト作用素になること。→ [相対コンパクト](/mathematics/functional-analysis/spectrum-classification#def-relatively-compact)
- **Weyl 列**: $\|(A-\lambda)\varphi_n\|\to0$ となる単位ベクトルの列。$\lambda$ がスペクトルにあることの判定に使う。→ [Weyl 列](/mathematics/functional-analysis/spectrum-classification#def-weyl-sequence)
- **本質スペクトル**: スペクトルから、有限多重度の孤立固有値（離散スペクトル）を除いた部分。→ [スペクトルの分類](/mathematics/functional-analysis/spectrum-classification)
- **コンパクト作用素**: 有界な列を、収束する部分列を持つ列に送る作用素。→ [コンパクト作用素](/mathematics/functional-analysis/compact-operators#def-compact-operator)
- **弱収束**: 任意のベクトルとの内積が収束するという意味の収束。ノルム収束より弱い。→ [弱収束](/mathematics/functional-analysis/hilbert-spaces#def-weak-convergence)

</Aside>

## 1. 動機

1 体のシュレーディンガー作用素 $-\Delta+V$ では、$V$ が無限遠で減衰すれば Weyl の定理によって $\sigma_{\mathrm{ess}}=[0,\infty)$ で、負のスペクトルは離散固有値だけでした（[スペクトルの分類](/mathematics/functional-analysis/spectrum-classification)）。ヘリウム原子や分子のような多体系では事情が違います。ヘリウムで電子 1 個だけを無限遠に飛ばすと、残る $\mathrm{He}^+$ イオンは束縛エネルギー $-2$（原子単位）を持ったままです。したがって、全エネルギーが $-2$ を超えれば、片方の電子が任意の運動エネルギーで遠ざかる状態が作れ、$[-2,\infty)$ は連続スペクトルになるはずです。

ここで「1 体の場合の Weyl の定理を多体系にそのまま使う」ことはできません。電子間反発 $1/|x_1-x_2|$ は、$x_1=x_2$ を保ったまま 2 電子を遠ざける方向には減衰しないので、$-\Delta$ に関して相対コンパクトではないからです。多体系の本質スペクトルを決めるには、配置空間の「遠方」を、どの粒子どうしが離れているかで分類する必要があります。この分類が**クラスター分解**で、分類に従って空間を滑らかに分割する道具が IMS 局所化公式です。

HVZ 定理は 1960 年前後に Zhislin、van Winter、Hunziker によって独立に得られ、ここで述べる幾何的な証明は Enss、Simon らによって整理されました（Simon の論文と Cycon–Froese–Kirsch–Simon の第 3 章）。この幾何的な考え方は、後の漸近完全性や Mourre 評価の多体版の基礎にもなっています。

（この章の続きは購入者向けです。）
