# C* 環の状態と GNS 構成：期待値の汎関数から Hilbert 空間を再構成する

> C* 環の状態を正値・規格化線形汎関数として定義し、GNS 構成とその一意性を証明する。純粋状態と既約表現の同値を Radon–Nikodym 型の補題から導き、密度行列・確率測度・Fock 真空の例で確かめる。
> https://rikai.mugen-giken.com/mathematics/operator-algebras/states-and-gns

## 0. この記事の要点

量子力学では、まず Hilbert 空間があり、その上の作用素が「測れる量」、ベクトルが「系の状態」と習います。この記事はその順序を逆にします。測れる量の集まり（代数）だけを先に決め、各量に「平均値」を割り当てる規則を状態と呼びます。そして、その平均値の規則だけから、状態を載せる Hilbert 空間を作り直せることを示します（GNS 構成）。読み終えると、状態が「これ以上分けられない」ことと、作られた空間が「これ以上分けられない」ことが同じ意味になる理由が分かります。

- 単位的 $C^*$ 環 $\mathfrak{A}$ の**状態**とは、正値（$\omega(a^*a)\ge0$）で $\omega(1)=1$ を満たす線形汎関数です。正値汎関数は自動的に有界で $\|\omega\|=\omega(1)$ となり、逆に $\|\omega\|=\omega(1)=1$ なら状態です。状態全体 $S(\mathfrak{A})$ は弱 $*$ コンパクト（[双対空間](/mathematics/functional-analysis/banach-spaces#def-dual-space)に入れる弱 $*$ 位相でコンパクト）な凸集合です。
- **GNS 構成**: 状態 $\omega$ から、Hilbert 空間 $\mathcal{H}_\omega$、表現 $\pi_\omega$、単位巡回ベクトル $\Omega_\omega$（$\pi_\omega(a)\Omega_\omega$ たちが $\mathcal{H}_\omega$ の中で稠密に広がるようなベクトル）を作り、$\omega(a)=\langle\Omega_\omega,\pi_\omega(a)\Omega_\omega\rangle$ とできます。巡回性を要求すれば、この三つ組は[ユニタリ同値](/mathematics/functional-analysis/hilbert-spaces#def-unitary)を除いて一意です。
- 状態の族で GNS 表現の直和を取ると忠実な表現が得られ、抽象的な $C^*$ 環はすべて $\mathcal{B}(\mathcal{H})$ の閉部分環として実現されます（Gelfand–Naimark）。
- $\omega$ が純粋（$S(\mathfrak{A})$ の端点、つまり他の状態の混ぜ合わせで書けない状態）であることと、$\pi_\omega$ が既約（$\pi_\omega(\mathfrak{A})'=\mathbb{C}1$。$\pi_\omega(\mathfrak{A})'$ は全ての $\pi_\omega(a)$ と可換な作用素の集まりで、可換子環と呼ぶ）であることは同値です。鍵は、$\omega$ で上から抑えられる正値汎関数が可換子環の元で表されるという Radon–Nikodym 型の補題です。
- 例: $M_n(\mathbb{C})$ の状態は密度行列 $\rho$ で $\omega(a)=\mathrm{tr}(\rho a)$ と書け、GNS 空間は $\mathbb{C}^n\otimes\mathbb{C}^{\mathrm{rank}\rho}$ です。$C(X)$ の状態は確率測度で、GNS 空間は $L^2(X,\mu)$ です。Weyl 作用素（正準交換関係を指数関数の形で書いたもの）の Fock 真空期待値 $e^{-\|f\|^2/4}$ からは Fock 空間そのものが復元されます。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **$C^*$ 環**: 複素数係数の代数で、ノルムと $*$（共役）が入り、$\|a^*a\|=\|a\|^2$ を満たすもの。→ [C*-代数](/mathematics/operator-algebras/c-star-algebras#def-cstar)
- **Hilbert 空間**: 内積が入り、そのノルムで完備なベクトル空間。→ [Hilbert 空間](/mathematics/functional-analysis/hilbert-spaces#def-hilbert-space)
- **直交射影**: 閉部分空間に、ベクトルをその部分空間への最も近い点へ送る作用素。→ [直交射影](/mathematics/functional-analysis/hilbert-spaces#def-orthogonal-projection)
- **有界線形汎関数**: ベクトルに数を対応させる線形な写像で、値の大きさがノルムの定数倍で抑えられるもの。→ [有界線形汎関数](/mathematics/functional-analysis/hilbert-spaces#def-bounded-linear-functional)
- **双対空間**: 有界線形汎関数全体のなす空間。→ [双対空間](/mathematics/functional-analysis/banach-spaces#def-dual-space)
- **ユニタリ同値**: ユニタリ作用素で一方をもう一方に移せること。→ [ユニタリ同値](/mathematics/functional-analysis/hilbert-spaces#def-unitary)

</Aside>

## 1. 動機

量子力学の教科書では、まず Hilbert 空間 $\mathcal{H}$ があり、その上の[自己共役作用素](/mathematics/functional-analysis/self-adjoint-extensions#def-self-adjoint)が観測量、単位ベクトルや密度作用素が状態です。しかし無限自由度の系（場の理論、熱力学極限のスピン系）では、この順序が成り立ちません。正準交換関係には互いに[ユニタリ同値](/mathematics/functional-analysis/hilbert-spaces#def-unitary)でない表現が無数にあり（[CCR の表現](/physics/fock-space/ccr-representations)）、どの Hilbert 空間を使うかは、考えている状態（真空か、温度 $\beta^{-1}$ の平衡状態か）によって決まります。

そこで Haag、Kastler、Segal らは順序を逆にしました。まず観測量の代数 $\mathfrak{A}$（$C^*$ 環）を与え、状態を「観測量に期待値を割り当てる規則」$\omega:\mathfrak{A}\to\mathbb{C}$ として定義します。物理的に測れるのは期待値だけなので、この定式化は自然です。Hilbert 空間は、状態が与えられてから $\omega$ の情報だけで再構成されます。これが Gelfand、Naimark（1943 年）と Segal（1947 年）による GNS 構成で、本テーマ全体の出発点です。

再構成の発想は単純です。観測量 $a$ に「$a$ を状態 $\omega$ に作用させたベクトル」$[a]$ を対応させ、内積を $\langle[a],[b]\rangle=\omega(a^*b)$ と定めます。ノルムが $0$ になる元で割り、完備化すれば Hilbert 空間になり、$\mathfrak{A}$ は左からの掛け算で作用します。この記事ではこの構成を正確に述べ、次の 2 つの問いに答えます。

1. 同じ状態から別の方法で作った表現と、GNS 表現はどう関係するか（一意性）。
2. 状態の性質（純粋かどうか）は、表現の性質（既約かどうか）にどう反映されるか。

2 の答え「純粋 ⇔ 既約」は、熱平衡状態の GNS 表現が既約にならない理由（熱状態は混合状態の極限である）を理解する基礎になり、[KMS 状態と熱平衡](/mathematics/operator-algebras/kms-states) で使います。

この記事では $C^*$ 環はすべて単位元 $1$ を持つとします。単位元を持たない場合も近似単位元を使えば同じ結果が成り立ちますが、議論が技術的になるだけで物理的内容は変わりません。$C^*$ 環の定義と連続関数計算は [C*-代数の基礎](/mathematics/operator-algebras/c-star-algebras) を前提とします。

（この章の続きは購入者向けです。）
