# Lieb–Robinson 評価とギャップ・相関の減衰：量子スピン系の有限伝播速度

> 量子スピン系の時間発展に有限の伝播速度があることを示す Lieb–Robinson 評価を Nachtergaele–Sims の方法で証明し、スペクトルギャップから基底状態の相関の指数減衰を導く。Lieb–Schultz–Mattis の定理、Haldane 予想、AKLT 模型と Knabe の有限サイズ判定も扱う。
> https://rikai.mugen-giken.com/mathematics/operator-algebras/lieb-robinson

## 0. この記事の要点

格子状に並んだ多数の量子的な粒子（小さな磁石の列のようなもの）のある場所に刺激を与えたとき、その影響は遠くまで一瞬で届くのでしょうか。相対論には光速という上限がありますが、格子上の量子系でも、相互作用の強さで決まる実質的な速さの上限があることを、この記事では示します。この上限が分かると、エネルギーに隙間（ギャップ）がある系では、離れた場所どうしの結びつき（相関）が距離とともに指数的に弱まることも導けます。読み終えると、この二つの結果の証明の流れと、ギャップがあるかないかを見分ける代表例（Lieb–Schultz–Mattis の定理、AKLT 模型）の位置づけが分かります。

- 相互作用 $\Phi$ が距離について指数的に減衰する（ノルム $\|\Phi\|_a$ が有限）とき、有限体積の時間発展 $\tau^\Lambda_t$ は体積によらない評価 $\|[\tau^\Lambda_t(A),B]\|\le C\|A\|\|B\|\min(|X|,|Y|)\,e^{-a(d(X,Y)-v|t|)}$ を満たします。これが **Lieb–Robinson 評価**で、$v$ は相互作用だけで決まる「速度」です。
- 証明は Nachtergaele–Sims による反復で、鍵は交換子の大きさ $C_B(X,t)$ についての積分不等式と、格子上の **F 関数**の畳み込み不等式 $\sum_z F(d(x,z))F(d(z,y))\le C_FF(d(x,y))$ です。
- [基底状態](/mathematics/operator-algebras/quantum-spin-systems#def-ground-state)の GNS ハミルトニアン（時間発展を生む作用素）が**一意な基底状態とギャップ $\gamma$** を持てば、局所観測量の相関は $e^{-\mu d(X,Y)}$、$\mu=a\gamma/(\gamma+2av)$ で減衰します（Hastings–Koma、Nachtergaele–Sims）。一意性を外すと減衰は起きません。
- 半奇数スピンの反強磁性 Heisenberg 鎖では、長さ $L$ の環のギャップが $O(1/L)$ で閉じます（**Lieb–Schultz–Mattis**）。整数スピンではギャップが開くという **Haldane 予想**は、一般の Heisenberg 鎖では未証明です。
- 整数スピンでギャップが証明できる代表例が **AKLT 模型**です。frustration-free な系（各項が同時に最小値 $0$ を取れる系）では、小さな開鎖のギャップ $\gamma_n$ が $1/n$ を超えれば全系にギャップがある、という **Knabe の有限サイズ判定**が使えます。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **準局所代数**: 有限個の格子点にだけ作用する観測量（局所観測量）を集め、ノルムの意味で閉じて作った代数。→ [準局所代数](/mathematics/operator-algebras/quantum-spin-systems#def-quasi-local-algebra)
- **相互作用**: 格子点の有限集合ごとに、そこに作用する自己共役な観測量を割り当てたもの。ハミルトニアンの部品になる。→ [量子スピン系](/mathematics/operator-algebras/quantum-spin-systems)
- **基底状態**: エネルギーが最小の状態。→ [基底状態](/mathematics/operator-algebras/quantum-spin-systems#def-ground-state)
- **GNS 構成**: 状態から、Hilbert 空間上の表現と基準になるベクトルを作る手順。→ [C* 環の状態と GNS 構成](/mathematics/operator-algebras/states-and-gns)
- **自己共役作用素**: 観測量やハミルトニアンを表す、実数のスペクトルを持つ作用素。→ [自己共役作用素](/mathematics/functional-analysis/self-adjoint-extensions#def-self-adjoint)

</Aside>

## 1. 動機

相対論的な場の理論では、因果律が光速で効きます。光錐の外にある 2 つの観測量は可換です。一方、格子上の量子スピン系のハミルトニアンは非相対論的で、$e^{itH}Ae^{-itH}$ は $t>0$ ならすぐに格子全体に広がります。局所観測量 $A$ の時間発展を $\tau_t(A)$ と書くと、遠くの $B$ との交換子 $[\tau_t(A),B]$ は一般に $0$ ではありません。

Lieb と Robinson（1972 年）は、この交換子が**光錐の外では指数的に小さい**ことを示しました。光速の代わりに、相互作用の強さと格子の幾何で決まる速度 $v$ が現れます。この結果は 30 年ほど注目されませんでしたが、2004 年から 2006 年にかけて Hastings、Nachtergaele–Sims、Hastings–Koma が次の 2 点を示してから、量子多体系の解析の基本道具になりました。

1. 評価の定数が**体積によらない**形で証明できる。これで熱力学極限の時間発展の存在（[量子スピン系](/mathematics/operator-algebras/quantum-spin-systems)）と、有限伝播速度が同時に手に入る。
2. 有限伝播速度と**スペクトルギャップ**を組み合わせると、基底状態の相関が指数的に減衰する。相対論的場の理論での「質量ギャップ ⇒ 相関の指数減衰」の格子版です。

この章ではまず 1 と 2 を証明します。そのうえで、ギャップがあるかないかを判定する問題に進みます。ギャップがないことを示す Lieb–Schultz–Mattis の定理と、ギャップがあることを示す AKLT 模型・Knabe の判定法です。整数スピンと半奇数スピンの違いを述べる Haldane 予想は、この 2 つの間にあります。

（この章の続きは購入者向けです。）
