# 因子の型分類：射影の比較・トレース・Powers 因子から III₁ 型の局所代数まで

> von Neumann 環の射影を Murray–von Neumann 同値で比較し、有限・無限射影から I・II₁・II∞・III 型の因子を定義する。トレースとの関係、Powers 因子と自由群因子の例、場の量子論の局所代数が III₁ 型であることの意味を扱う。
> https://rikai.mugen-giken.com/mathematics/operator-algebras/factor-types

## 0. この記事の要点

量子力学で「観測量の集まり」を行列のように扱うと、状態を確率の表（密度行列）で書けて、部分系のエントロピーも計算できます。ところが自由度が無限にある系では、観測量の集まりが行列の世界とはまったく違う形になることがあります。この記事では、その違いを「部分空間の大きさをどう比べられるか」という素朴な観点で 3 種類に分け、どの種類のとき密度行列やエントロピーが使えるかを読み取れるようになります。

- [von Neumann 環](/mathematics/operator-algebras/von-neumann-algebras#def-von-neumann-algebra) $\mathfrak{M}$ の 2 つの射影 $E,F$ は、$V^*V=E$、$VV^*=F$ となる部分等長（長さを保ったまま一方の部分空間をもう一方へ移し、残りを $0$ に送る作用素）$V\in\mathfrak{M}$ があるとき同値（$E\sim F$）です。これは「$\mathfrak{M}$ の中で測った次元が等しい」という意味で、因子では任意の 2 射影が比較可能です（比較定理）。
- 射影 $E$ が自分の真部分射影と同値にならないとき有限と言います。最小射影があれば I 型、最小射影はないが $0$ でない有限射影があれば II 型（$1$ が有限なら II₁、無限なら II∞）、$0$ でない射影がすべて無限なら III 型です。
- I 型因子は $\mathcal{B}(\mathcal{K})\otimes 1$ と空間的に同型で、量子力学の教科書が使う「密度行列のある世界」そのものです。有限な因子（I_n と II₁）は忠実正規な跡状態をもち、III 型因子は $0$ でない正規半有限トレースをもちません。
- 無限個のスピンの積状態（Powers 状態）から生成される因子は、温度に当たるパラメータ $\lambda$ によって I∞・II₁・III_λ 型を行き来します。ICC 群の群 von Neumann 環は II₁ 型因子で、自由群 $\mathbb{F}_2$ がその代表例です。
- 相対論的場の量子論で有界時空領域に付随する局所代数は、超有限な III₁ 型因子になります。局所的な観測量の代数には密度行列も正規な純粋状態もなく、領域のエンタングルメント・エントロピーが発散することの代数的な表れです。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **因子**: 中心（すべての元と可換な元の全体）が定数倍だけの von Neumann 環。→ [von Neumann 環と二重可換子定理](/mathematics/operator-algebras/von-neumann-algebras)
- **直交射影**: Hilbert 空間の閉部分空間へ、最も近い点を対応させる作用素。→ [直交射影](/mathematics/functional-analysis/hilbert-spaces#def-orthogonal-projection)
- **極分解**: 作用素 $T$ を、部分等長と正の作用素の積 $T=V|T|$ に分けること。環の中で閉じて行えることがこの記事の出発点です。→ [von Neumann 環と二重可換子定理](/mathematics/operator-algebras/von-neumann-algebras)
- **正規状態**: 上に有界な増大ネットについて連続な状態。密度行列による状態はその例です。→ [正規状態](/mathematics/operator-algebras/von-neumann-algebras#def-normal-state)
- **Zorn の補題**: 半順序集合のどの全順序部分集合にも上界があれば、極大元が存在するという主張。→ [Zorn の補題](/mathematics/foundations/axiom-of-choice-zorn#thm-zorn)

</Aside>

## 1. 動機

量子力学の教科書では、観測量の代数は $\mathcal{B}(\mathcal{H})$ で、状態は密度行列 $\rho$ を使って $\omega(x)=\mathrm{tr}(\rho x)$ と書かれます。有限自由度の系ではこれで足ります。Stone–von Neumann の一意性定理により、CCR の既約表現は本質的に 1 つで、観測量の代数を $\mathcal{B}(\mathcal{H})$ と思って構いません。

無限自由度の系ではこの描像が崩れます。熱力学的極限をとった有限温度の量子スピン系や、場の量子論で有界な時空領域に局在した観測量を考えると、自然に現れる von Neumann 環は $\mathcal{B}(\mathcal{H})$ ではなく、中心が自明でも $\mathcal{B}(\mathcal{H})$ と同型でない環になります。Murray と von Neumann は 1936 年からの一連の論文で、中心が自明な von Neumann 環（因子）を、射影の「大きさ」のふるまいによって I・II・III 型に分類しました。

この分類は物理的な問いに直結しています。

- 局所的な状態を密度行列で書けるか（I 型かどうか）。
- 部分系のエントロピー $-\mathrm{tr}\,\rho\log\rho$ が定義できるか（トレースがあるかどうか）。
- 熱平衡状態の時間発展は、ハミルトニアンによる内部的な時間発展として書けるか（次章の冨田–竹崎理論で、モジュラー群が内部的かどうか）。

この記事では、射影の比較理論から型の定義までを証明つきで組み立て、代表的な例と、場の量子論で III₁ 型が現れる意味を説明します。III 型の細分（III_λ）には次章 [冨田–竹崎理論とモジュラー群](/mathematics/operator-algebras/tomita-takesaki) のモジュラー作用素が必要なので、定義だけを先に述べます。

（この章の続きは購入者向けです。）
