# 行列の分解と標準形：ケイリー・ハミルトンから特異値分解・ウィリアムソンの標準形まで

> ケイリー・ハミルトンの定理と最小多項式、シュール分解、特異値分解と極分解、シルヴェスターの慣性法則、ウィリアムソンの標準形、高木分解、行列の指数関数と対数を、定義から証明する。
> https://rikai.mugen-giken.com/mathematics/linear-algebra/matrix-decompositions

## 0. この記事の要点

行列は、座標の取り方を変えると見た目が変わります。この記事は「どんな行列でも、座標をうまく選べば、伸び縮み・回転・三角形の形といった単純な部品に分けて見られる」ことを、いくつかの形（分解・標準形）として整理します。読み終えると、行列の累乗や逆行列を簡単に求めたり、行列が空間をどのくらい引き伸ばすかを数で測ったり、データの行列を少ない情報で近似したりする見通しが得られます。

- **ケイリー・ハミルトンの定理** $\varphi_A(A)=0$ は[余因子行列](/mathematics/linear-algebra/determinants#def-cofactor)の関係式から導かれ、$A$ を零にする多項式の中で次数最小のもの（**最小多項式**）が一意に定まります。$A$ が対角化可能であることは、最小多項式が重根をもたない 1 次式の積であることと同値です。
- **シュール分解** $A=UTU^{*}$（$U$ ユニタリ、$T$ 上三角）は、すべての複素正方行列に対して存在します。$T$ が対角になるのは $A$ が正規行列のときに限ります。
- **特異値分解** $A=U\Sigma V^{*}$ は、任意の長方行列に対して存在し、特異値 $\sigma_1\ge\cdots\ge\sigma_r>0$ は $A^{*}A$ の固有値の平方根です。$A$ を[階数](/mathematics/linear-algebra/matrices-and-linear-systems#def-rank) $k$ の行列で近似したときの最小誤差（作用素ノルム。ベクトルを最大で何倍に伸ばすかを測る量）は $\sigma_{k+1}$ です。極分解 $A=UP$ は、特異値分解から読み取れます。
- **シルヴェスターの慣性法則**: エルミート行列を合同変換 $S^{*}AS$（正則行列 $S$ による座標の取り換えで 2 次形式を書き直す操作）で変えても、正・負・零の固有値の個数は変わりません。
- **ウィリアムソンの標準形**: 正定値な実対称行列 $A$（$2n$ 次）は、シンプレクティック行列 $S$（力学の位相空間の構造を保つ座標変換の行列。§7 で定義します）により $S^{\mathsf{T}}AS=\operatorname{diag}(D,D)$（$D$ は正の対角行列）と書けます。**高木分解** $A=U\Sigma U^{\mathsf{T}}$ は、複素対称行列に対する同様の標準形です。
- 行列の指数関数 $e^{A}=\sum A^k/k!$ は常に収束し、$\det e^{A}=e^{\operatorname{tr}A}$ を満たします。エルミート行列の指数関数は正定値行列の全体への全単射で、その逆が対数です。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **特性多項式**: 行列 $A$ から $\det(tI-A)$ として作る多項式で、その根が固有値です。→ [特性多項式](/mathematics/linear-algebra/eigenvalues#def-charpoly)
- **対角化可能**: 適当な座標変換で、行列を対角行列にできるという性質。→ [対角化可能](/mathematics/linear-algebra/diagonalization-and-jordan-form#def-diagonalizable)
- **ユニタリ行列・エルミート行列・正規行列**: 長さと内積を保つ行列、$A^{*}=A$ を満たす行列、$A^{*}A=AA^{*}$ を満たす行列のこと。→ [ユニタリ行列・エルミート行列・正規行列](/mathematics/linear-algebra/spectral-theorem#def-hermitian-unitary)
- **正定値・半正定値**: 0 でないすべてのベクトル $\boldsymbol{x}$ で $\langle H\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\rangle$ が正（半正定値では 0 以上）になる性質。→ [正定値・半正定値](/mathematics/linear-algebra/spectral-theorem#def-positive-definite)
- **正規直交基底**: 長さが 1 で互いに直交するベクトルからなる基底。→ [正規直交基底](/mathematics/linear-algebra/inner-product-spaces#def-orthonormal)
- **射影・直和**: 空間を部分空間の和に分けることと、その各成分を取り出す写像。→ [直和](/mathematics/linear-algebra/dual-and-quotient-spaces#def-direct-sum)

</Aside>

## 1. 動機 — 複雑な行列を「単純な部品」に分ける

行列 $A$ が一つの線形変換を表すとき、座標の取り方を変えれば表示は変わります。座標をうまく選ぶと、変換が「各軸方向の伸縮」「軸の回転」「三角形の形」のような単純な部品に見えます。それを行列の等式として書いたものが分解・標準形です。

| 分解 | 形 | 座標変換の条件 | 対象 |
|---|---|---|---|
| ジョルダン標準形 | $P^{-1}AP=J$ | 任意の正則行列 | 任意の複素正方行列 |
| シュール分解 | $U^{*}AU=T$（上三角） | ユニタリ | 任意の複素正方行列 |
| スペクトル分解 | $U^{*}AU=D$（対角） | ユニタリ | 正規行列 |
| 特異値分解 | $U^{*}AV=\Sigma$ | 左右で別々のユニタリ | 任意の長方行列 |
| ウィリアムソン | $S^{\mathsf{T}}AS=\operatorname{diag}(D,D)$ | シンプレクティック | 正定値実対称行列 |

座標変換の許容範囲を狭めるほど（正則 $\to$ ユニタリ $\to$ シンプレクティック）、標準形に残る情報が増えます。ユニタリ変換は長さと角度を保ち、数値計算で誤差が増幅されません。シンプレクティック変換は、量子力学の正準交換関係やハミルトン力学の位相空間構造を保ちます。解析学では、特異値は作用素の近似可能性（[コンパクト作用素](/mathematics/functional-analysis/compact-operators#def-compact-operator)や、特異値の和・2 乗和などで作るシャッテン族）を測る尺度です。この記事は、後でそれらを学ぶための道具箱です。

## 2. ケイリー・ハミルトンの定理と最小多項式

体 $K$ 上の $n$ 次正方行列 $A$ と多項式 $p(t)=\sum_kc_kt^k$ に対し、$p(A)=\sum_kc_kA^k$（$A^0=I$）と定めます。特性多項式 $\varphi_A(t)=\det(tI-A)$ は <Ref to="mathematics/linear-algebra/eigenvalues#def-charpoly" text="特性多項式" /> のとおりです。

ケイリー・ハミルトンの定理を示す方針は、$tI-A$ とその余因子行列の積が $\varphi_A(t)I$ になるという関係式の両辺を $t$ の多項式として展開し、係数を比べることです。

<Theorem id="thm-cayley-hamilton" title="ケイリー・ハミルトンの定理">
$A\in M_n(K)$ に対し $\varphi_A(A)=0$ である。
</Theorem>

<Proof of="thm-cayley-hamilton">
$n=1$ のとき $A=(a)$、$\varphi_A(t)=t-a$ で $\varphi_A(A)=0$ です。$n\ge2$ とします。成分が多項式の行列 $M(t)=tI-A$ を、有理関数体 $K(t)$ 上の行列とみなすと、<Ref to="mathematics/linear-algebra/determinants#prop-adjugate" text="余因子行列の基本関係式" /> により
$$
M(t)\cdot\operatorname{adj}M(t)=\det M(t)\,I=\varphi_A(t)\,I
$$
です。$\operatorname{adj}M(t)$ の各成分は $M(t)$ の $(n-1)$ 次小行列式（の符号つき）なので、$t$ についての次数が $n-1$ 以下の多項式です。したがって $\operatorname{adj}M(t)=\sum_{k=0}^{n-1}t^kB_k$（$B_k\in M_n(K)$）と書けます。$\varphi_A(t)=\sum_{k=0}^{n}c_kt^k$（$c_n=1$）とおき、$B_{-1}=B_n=0$ と約束して両辺を展開し、$t^k$ の係数を比べると
$$
B_{k-1}-AB_k=c_kI\qquad(k=0,1,\ldots,n)
$$
です。この式に左から $A^k$ を掛けて $k=0,\ldots,n$ について足します。左辺は $\sum_{k=1}^{n}A^kB_{k-1}-\sum_{k=0}^{n-1}A^{k+1}B_k=0$ と打ち消し合い（添字を $j=k-1$ とずらすと同じ和になる）、右辺は $\sum_kc_kA^k=\varphi_A(A)$ です。
</Proof>

直観的には「$\varphi_A(\lambda)=0$ は固有値が満たす方程式で、$A$ 自身もそれを満たす」ということです。ただし $\varphi_A(t)=\det(tI-A)$ に $t=A$ を機械的に代入すると、スカラーを行列で置き換える操作になって意味が変わるため、上のような係数比較が必要です。

<Example id="ex-cayley-hamilton" title="累乗と逆行列の計算">
フィボナッチ行列 $A=\begin{pmatrix}1&1\\1&0\end{pmatrix}$ は $\varphi_A(t)=t^2-t-1$ なので $A^2=A+I$ です。したがって $A^3=A^2+A=2A+I$、$A^4=3A+2I$、$A^5=5A+3I$ と、$A$ の冪はいつも「$A$ の 1 次式」で書けます（係数がフィボナッチ数）。また $\det A\ne0$ ならば $\varphi_A(0)=(-1)^n\det A\ne0$ なので、$\varphi_A(A)=0$ を $A$ で割って逆行列が $A$ の多項式で表せます。2 次の場合 $A^2-(\operatorname{tr}A)A+(\det A)I=0$ から $A^{-1}=\dfrac{1}{\det A}\bigl((\operatorname{tr}A)I-A\bigr)$ です。
</Example>

$A$ を零にする多項式は他にもあります。その中で最も次数が低いものが、$A$ の構造を最もよく表します。

なお、最高次の係数が 1 の多項式を**モニック**といいます。次の命題は、$A$ を零にする多項式の全体が、ある 1 つの多項式の倍数でちょうど尽くされることを述べます。

<Proposition id="prop-minimal-polynomial" title="最小多項式">
$A\in M_n(K)$ に対し、$p(A)=0$ を満たす多項式 $p$ の全体を $\mathfrak a_A$ とする。

1. モニックで次数最小の $m_A\in\mathfrak a_A$ がただ一つ存在し（**最小多項式**）、$\mathfrak a_A$ の元はすべて $m_A$ の倍数である。
2. $m_A$ は $\varphi_A$ を割り切る。とくに $\deg m_A\le n$。
3. $\lambda\in K$ について、$m_A(\lambda)=0$ と $\varphi_A(\lambda)=0$ は同値（どちらも $\lambda$ が固有値であること）。
4. 相似な行列は同じ最小多項式をもつ。
</Proposition>

<Proof of="prop-minimal-polynomial">
1. <Ref to="thm-cayley-hamilton" /> より $\varphi_A\in\mathfrak a_A$ で、$\mathfrak a_A$ は零でない多項式を含みます。その中のモニックな最小次数のものを一つ取り $m$ とします。$p\in\mathfrak a_A$ を $m$ で割って $p=qm+r$（$\deg r<\deg m$ または $r=0$）とすると、$r(A)=p(A)-q(A)m(A)=0$ なので $r\in\mathfrak a_A$ で、$m$ の最小性から $r=0$、すなわち $m\mid p$ です。別の最小多項式 $m'$ があれば互いに割り切るのでモニック同士で一致します。
2. $\varphi_A\in\mathfrak a_A$ と 1 から従います。
3. $m_A\mid\varphi_A$ より $m_A(\lambda)=0\Rightarrow\varphi_A(\lambda)=0$。逆に $\lambda$ が固有値で $A\boldsymbol{v}=\lambda\boldsymbol{v}$（$\boldsymbol{v}\ne0$）とすると $0=m_A(A)\boldsymbol{v}=m_A(\lambda)\boldsymbol{v}$ なので $m_A(\lambda)=0$ です。$\varphi_A(\lambda)=0$ と固有値の同値は <Ref to="mathematics/linear-algebra/eigenvalues#prop-eigen-criterion" text="固有値の判定条件" /> です。
4. $p(P^{-1}AP)=P^{-1}p(A)P$ なので、$\mathfrak a_A=\mathfrak a_{P^{-1}AP}$ です。
</Proof>

<Theorem id="thm-diagonalizable-minimal" title="最小多項式による対角化可能性の判定">
$A\in M_n(K)$ が $K$ 上で対角化可能であることは、$m_A(t)=(t-\lambda_1)\cdots(t-\lambda_r)$（$\lambda_1,\ldots,\lambda_r\in K$ は互いに相異なる）の形であることと同値である。
</Theorem>

対角化可能性の判定の（$\Leftarrow$）では、最小多項式が相異なる 1 次式の積のとき、各固有値に対応する「固有空間への射影」を多項式で具体的に作り、その和が $I$ になること（つまりどのベクトルも固有ベクトルの和に分解できること）を示します。

<Proof of="thm-diagonalizable-minimal">
$(\Rightarrow)$ $A=PDP^{-1}$、$D$ の対角成分に現れる相異なる値を $\lambda_1,\ldots,\lambda_r$ とします。$p(t)=\prod_i(t-\lambda_i)$ とすると $p(D)=0$（対角成分ごとに $0$）なので $p(A)=Pp(D)P^{-1}=0$、よって $m_A\mid p$ です。一方、各 $\lambda_i$ は固有値なので <Ref to="prop-minimal-polynomial" /> の 3 から $m_A(\lambda_i)=0$ です。因数定理で $m_A=(t-\lambda_1)q_1$、$q_1(\lambda_2)(\lambda_2-\lambda_1)=0$ より $q_1(\lambda_2)=0$、と順に因数を取り出して $p\mid m_A$ を得ます。ともにモニックなので $m_A=p$ です。

$(\Leftarrow)$ $m_A=\prod_{i=1}^r(t-\lambda_i)$ とし、
$$
P_i=\prod_{j\ne i}\frac{A-\lambda_jI}{\lambda_i-\lambda_j}\qquad(i=1,\ldots,r)
$$
とおきます。多項式 $q(t)=\sum_i\prod_{j\ne i}\frac{t-\lambda_j}{\lambda_i-\lambda_j}$ は次数が $r-1$ 以下で、$q(\lambda_i)=1$（$r$ 個の点）なので、$q-1$ は次数 $r-1$ 以下で $r$ 個の根をもつ多項式、つまり零です。よって $q=1$ で $\sum_iP_i=I$ です。また $(A-\lambda_iI)P_i$ は $m_A(A)$ の定数倍で $0$ なので、$\boldsymbol{v}\in K^n$ に対し $P_i\boldsymbol{v}\in\ker(A-\lambda_iI)$ です。したがって $\boldsymbol{v}=\sum_iP_i\boldsymbol{v}$ は固有ベクトル（または $0$）の和で、$K^n$ は固有ベクトルで張られます。これは対角化可能性です（<Ref to="mathematics/linear-algebra/diagonalization-and-jordan-form#thm-diagonalizable-basis" text="対角化と固有基底" />: 張る集合から基底が選べる）。
</Proof>

たとえばジョルダン細胞 $J_2(\lambda)$ は $\varphi=(t-\lambda)^2$ で、$A-\lambda I\ne0$ なので $m=(t-\lambda)^2$ は重根をもち、対角化不可能です。逆に $(\Leftarrow)$ の $P_i$ は $\sum P_i=I$、$P_iP_j=0$（$i\ne j$）、$P_i^2=P_i$、$A=\sum\lambda_iP_i$ を満たし、<Ref to="mathematics/linear-algebra/dual-and-quotient-spaces#thm-projections" text="直和分解と射影の対応" /> の言葉でいうと、固有空間への射影族そのものです。

## 3. シュール分解と正規行列

ジョルダン標準形は強力ですが、座標変換の行列 $P$ がユニタリとは限らず、数値的に不安定です。ユニタリ変換だけで得られる形が上三角行列です。

<Theorem id="thm-schur" title="シュール分解">
$A\in M_n(\mathbb{C})$ とし、$\lambda_1,\ldots,\lambda_n$ を固有値の任意の並べ方（重複度を込める）とする。ユニタリ行列 $U$ と、対角成分が $t_{kk}=\lambda_k$ である上三角行列 $T$ が存在して $A=UTU^{*}$ となる。
</Theorem>

<Proof of="thm-schur">
$n$ についての帰納法で示します。$n=1$ は明らかです。$n\ge2$ とし、$\lambda_1$ を固有値、$\boldsymbol{u}_1$ を長さ $1$ の固有ベクトルとします（<Ref to="mathematics/linear-algebra/eigenvalues#cor-existence-complex" text="固有値の存在" /> により固有値が存在します）。$\boldsymbol{u}_1$ を正規直交基底 $\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_n$ に拡張し（<Ref to="mathematics/linear-algebra/inner-product-spaces#cor-onb-exists" text="正規直交基底の存在" />）、これらを列に並べたユニタリ行列を $V_1$ とします（<Ref to="mathematics/linear-algebra/spectral-theorem#prop-unitary" text="ユニタリ行列の特徴づけ" />）。$A\boldsymbol{u}_1=\lambda_1\boldsymbol{u}_1$ なので
$$
V_1^{*}AV_1=\begin{pmatrix}\lambda_1&\boldsymbol{b}^{*}\\0&A'\end{pmatrix}
$$
の形です（第 1 列が $\lambda_1\boldsymbol{e}_1$）。この行列の特性多項式は $(t-\lambda_1)\varphi_{A'}(t)$ なので（第 1 列で余因子展開）、$A'$（$n-1$ 次）の固有値は $\lambda_2,\ldots,\lambda_n$ です。帰納法の仮定で $A'=U'T'U'^{*}$、対角成分が $\lambda_2,\ldots,\lambda_n$ の順の上三角 $T'$ をとり、$U=V_1\begin{pmatrix}1&0\\0&U'\end{pmatrix}$ とおけば $U^{*}AU=\begin{pmatrix}\lambda_1&\boldsymbol{b}^{*}U'\\0&T'\end{pmatrix}$ が求める上三角行列です。
</Proof>

これは「固有ベクトルを一つ見つけたら、その直交補空間（商空間と同一視される）に帰着する」という帰納法で、<Ref to="mathematics/linear-algebra/dual-and-quotient-spaces#prop-invariant-block" text="不変部分空間と分割された表現行列" /> のブロック三角形の直接の応用です。

<Proposition id="prop-normal-characterization" title="正規行列の特徴づけ">
$A\in M_n(\mathbb{C})$ について次は同値である。

1. $A$ は正規行列（$A^{*}A=AA^{*}$）。
2. すべての $\boldsymbol{x}$ について $\|A\boldsymbol{x}\|=\|A^{*}\boldsymbol{x}\|$。
3. <Ref to="thm-schur" /> の $T$ が対角行列になる。すなわち $A=UDU^{*}$（$U$ ユニタリ、$D$ 対角）。
</Proposition>

<Proof of="prop-normal-characterization">
(1)$\Leftrightarrow$(2): $\|A\boldsymbol{x}\|^2-\|A^{*}\boldsymbol{x}\|^2=\langle(A^{*}A-AA^{*})\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\rangle$ です。$H=A^{*}A-AA^{*}$ はエルミート行列で、スペクトル定理（<Ref to="mathematics/linear-algebra/spectral-theorem#thm-spectral" text="スペクトル定理" />）の正規直交固有ベクトル $\boldsymbol{u}_k$（固有値 $h_k$）に対して $\langle H\boldsymbol{u}_k,\boldsymbol{u}_k\rangle=h_k$ です。すべての $\boldsymbol{x}$ で内積が $0$ なら $h_k=0$ がすべての $k$ で成り立ち、$H=0$ です。逆は明らか。

(3)$\Rightarrow$(1): $D$ は対角行列なので $D^{*}D=DD^{*}$、したがって $A^{*}A=UD^{*}DU^{*}=UDD^{*}U^{*}=AA^{*}$ です。

(1)$\Rightarrow$(3): $T=U^{*}AU$ は正規行列です（$T^{*}T=U^{*}A^{*}AU=U^{*}AA^{*}U=TT^{*}$）。$T$ の行 $1,\ldots,k-1$ が対角成分以外 $0$ であると仮定します（$k=1$ は空虚に成り立つ）。$(T^{*}T)_{kk}=\sum_{j\le k}|t_{jk}|^2=|t_{kk}|^2$（$j<k$ では行 $j$ が対角的なので $t_{jk}=0$）、$(TT^{*})_{kk}=\sum_{j\ge k}|t_{kj}|^2$ です。両者が等しいので $\sum_{j>k}|t_{kj}|^2=0$、行 $k$ も対角的です。帰納的に $T$ は対角行列です。
</Proof>

(1)$\Leftrightarrow$(3) は <Ref to="mathematics/linear-algebra/spectral-theorem#thm-normal" text="スペクトル定理（正規行列）" /> と同じ内容ですが、ここではシュール分解から出発して「上三角の正規行列は対角行列である」という形で別に証明しました。エルミート行列・ユニタリ行列・反エルミート行列は正規行列の部分クラスで、$D$ の対角成分がそれぞれ実数・絶対値 $1$・純虚数になります。

## 4. 特異値分解

正規行列は、ユニタリ行列 $U$ で $U^{*}AU=D$ と対角化できました。しかしこれは正方行列で、しかも $A^{*}A=AA^{*}$ という強い条件の下の話です。入力空間と出力空間の座標を**別々に**取れるようにすると、任意の長方行列が対角化できます。

<Theorem id="thm-svd" title="特異値分解">
$A\in M_{m,n}(\mathbb{C})$、$r=\operatorname{rank}A$ とする。ユニタリ行列 $U\in M_m(\mathbb{C})$、$V\in M_n(\mathbb{C})$ と、実数 $\sigma_1\ge\sigma_2\ge\cdots\ge\sigma_r>0$ が存在して
$$
A=U\Sigma V^{*},\qquad\Sigma\in M_{m,n}(\mathbb{R}),\quad\Sigma_{ii}=\sigma_i\ (i\le r),\ \text{その他の成分は }0
$$
となる。$\sigma_1^2,\ldots,\sigma_r^2$ は $A^{*}A$ の $0$ でない固有値（重複度を込める）であり、$\sigma_i$ を $A$ の**特異値**という。$V$ の第 $i$ 列 $\boldsymbol{v}_i$ を右特異ベクトル、$U$ の第 $i$ 列 $\boldsymbol{u}_i$ を左特異ベクトルといい、$A\boldsymbol{v}_i=\sigma_i\boldsymbol{u}_i$（$i\le r$）、$A\boldsymbol{v}_i=0$（$i>r$）が成り立つ。
</Theorem>

<Proof of="thm-svd">
$A^{*}A$ は $n$ 次エルミート行列で、$\langle A^{*}A\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\rangle=\|A\boldsymbol{x}\|^2\ge0$ です。固有値 $\lambda$、固有ベクトル $\boldsymbol{x}$ について $\lambda\|\boldsymbol{x}\|^2=\|A\boldsymbol{x}\|^2$ ですから $\lambda\ge0$ です。スペクトル定理（<Ref to="mathematics/linear-algebra/spectral-theorem#thm-spectral" text="スペクトル定理" />）により、固有値を $\lambda_1\ge\cdots\ge\lambda_n\ge0$ の順に並べた正規直交固有ベクトル $\boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_n$ が取れます。

$A^{*}A\boldsymbol{x}=0$ なら $\|A\boldsymbol{x}\|^2=\langle A^{*}A\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\rangle=0$ なので $\ker A^{*}A=\ker A$ で、次元定理より $\dim\ker A=n-r$ です。ゆえに $0$ になる固有値はちょうど $n-r$ 個、すなわち $\lambda_1\ge\cdots\ge\lambda_r>0=\lambda_{r+1}=\cdots=\lambda_n$ です。$\sigma_i=\sqrt{\lambda_i}$ とおきます。

$i\le r$ に対し $\boldsymbol{u}_i=\sigma_i^{-1}A\boldsymbol{v}_i$ とすると、$\langle A\boldsymbol{v}_i,A\boldsymbol{v}_j\rangle=\langle A^{*}A\boldsymbol{v}_i,\boldsymbol{v}_j\rangle=\lambda_i\delta_{ij}$ ですから $\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_r$ は正規直交系です。これを $\mathbb{C}^m$ の正規直交基底 $\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_m$ に拡張します（<Ref to="mathematics/linear-algebra/inner-product-spaces#cor-onb-exists" text="正規直交基底の存在" />）。$i>r$ では $\|A\boldsymbol{v}_i\|^2=\lambda_i=0$ より $A\boldsymbol{v}_i=0$。よって $V=(\boldsymbol{v}_1\cdots\boldsymbol{v}_n)$、$U=(\boldsymbol{u}_1\cdots\boldsymbol{u}_m)$ はユニタリ行列で $AV=U\Sigma$、$A=U\Sigma V^{*}$ です。
</Proof>

分解は「$A$ は $\boldsymbol{v}_i$ 方向を $\sigma_i$ 倍して $\boldsymbol{u}_i$ 方向に送る」という内容で、単位球が楕円体に写ると見ると、特異値はその楕円体の半軸の長さです。

<Example id="ex-svd" title="2 次の特異値分解">
$A=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$（せん断）の $A^{*}A=\begin{pmatrix}1&1\\1&2\end{pmatrix}$ は、特性多項式 $\lambda^2-3\lambda+1$ で固有値 $\frac{3\pm\sqrt5}{2}$ をもちます。$\sqrt{\tfrac{3+\sqrt5}{2}}=\tfrac{1+\sqrt5}{2}$（黄金比 $\varphi$）、$\sqrt{\tfrac{3-\sqrt5}{2}}=\tfrac{\sqrt5-1}{2}=\varphi^{-1}$ なので、特異値は $\sigma_1=\varphi$、$\sigma_2=\varphi^{-1}$ です。$\sigma_1\sigma_2=1=|\det A|$、$\sigma_1^2+\sigma_2^2=3=\sum|a_{ij}|^2$（$=\operatorname{tr}A^{*}A$）となり、単位円は長半径 $\varphi$、短半径 $\varphi^{-1}$ の楕円に写ります。
</Example>

<Figure caption="特異値分解の幾何。A は単位円を、右特異ベクトル v1, v2 の方向を保ったまま、左特異ベクトル u1, u2 を軸とする楕円（半軸 σ1, σ2）に写す。">
<svg viewBox="0 0 380 190" width="100%" role="img" aria-label="単位円が楕円に写る様子">
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</svg>
</Figure>

特異値は、行列のノルムと、低階数近似の限界を決めます。$\|A\|=\max_{\|\boldsymbol{x}\|=1}\|A\boldsymbol{x}\|$ を**作用素ノルム**といいます。

次の命題の 3 は、「階数 $k$ 以下の行列 $B$ は $n-k$ 次元以上のベクトルを 0 に送る」ことに着目し、それと $\boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_{k+1}$ の張る空間が（次元の足し算で）必ず共通のベクトルをもつことを使って、どの $B$ でも誤差が $\sigma_{k+1}$ 以上になることを示します。

<Proposition id="prop-eckart-young" title="作用素ノルムと最良低階数近似">
$A=U\Sigma V^{*}$ を特異値分解とする。

1. $\|A\boldsymbol{x}\|^2=\sum_{i\le r}\sigma_i^2|\langle\boldsymbol{x},\boldsymbol{v}_i\rangle|^2$。とくに最大値が存在して $\|A\|=\sigma_1$。
2. $0\le k<r$ に対し $A_k=\sum_{i\le k}\sigma_i\boldsymbol{u}_i\boldsymbol{v}_i^{*}$（階数 $k$）とおくと、$\|A-A_k\|=\sigma_{k+1}$。
3. 階数 $k$ 以下の任意の行列 $B$（$0\le k<r$）に対し $\|A-B\|\ge\sigma_{k+1}$。すなわち $A_k$ は階数 $k$ 以下の行列の中で $A$ に最も近い（エッカート・ヤング、ミルスキー）。
</Proposition>

<Proof of="prop-eckart-young">
1. $\boldsymbol{x}=\sum c_i\boldsymbol{v}_i$（$c_i=\langle\boldsymbol{x},\boldsymbol{v}_i\rangle$）なら $A\boldsymbol{x}=\sum_{i\le r}c_i\sigma_i\boldsymbol{u}_i$ で、$\boldsymbol{u}_i$ の正規直交性から $\|A\boldsymbol{x}\|^2=\sum_{i\le r}\sigma_i^2|c_i|^2$ です。$\|\boldsymbol{x}\|=1$ のとき $\sum|c_i|^2=1$ なので $\|A\boldsymbol{x}\|^2\le\sigma_1^2$、$\boldsymbol{x}=\boldsymbol{v}_1$ で等号です。
2. $A-A_k=\sum_{k<i\le r}\sigma_i\boldsymbol{u}_i\boldsymbol{v}_i^{*}$ は 1 と同じ計算で、$\|(A-A_k)\boldsymbol{x}\|^2=\sum_{i>k}\sigma_i^2|c_i|^2\le\sigma_{k+1}^2$、$\boldsymbol{x}=\boldsymbol{v}_{k+1}$ で等号です。
3. $\operatorname{rank}B\le k$ なら $\dim\ker B\ge n-k$ です。$W=\operatorname{span}(\boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_{k+1})$ は次元 $k+1$ なので、次元公式（<Ref to="mathematics/linear-algebra/dual-and-quotient-spaces#prop-direct-sum-criteria" text="直和の判定と次元公式" /> の 1）から $\dim(W\cap\ker B)\ge(k+1)+(n-k)-n=1$ です。この共通部分の長さ $1$ のベクトル $\boldsymbol{x}=\sum_{i\le k+1}c_i\boldsymbol{v}_i$ について、$B\boldsymbol{x}=0$ より $\|(A-B)\boldsymbol{x}\|^2=\|A\boldsymbol{x}\|^2=\sum_{i\le k+1}\sigma_i^2|c_i|^2\ge\sigma_{k+1}^2$ です。
</Proof>

データサイエンスでは、画像や行列データを $A_k$ で圧縮する（低ランク近似）、主成分分析を中心化したデータ行列の特異値分解として計算する、といった使い方があります。後者では右特異ベクトルが主成分の方向、$\sigma_i^2/N$ が分散で、これは共分散行列 $A^{*}A/N$ の固有値分解（<Ref to="mathematics/linear-algebra/spectral-theorem#thm-rayleigh" text="レイリー商の最大・最小" />）にほかなりません。

## 5. 極分解

複素数 $z=re^{i\theta}$ が「長さ $r\ge0$ と位相 $e^{i\theta}$ の積」と書けるように、正方行列も「半正定値な伸縮 $P$ とユニタリ $U$ の積」と書けます。まず半正定値行列の平方根を確認します。エルミート行列 $H$ が**半正定値**とは、すべての $\boldsymbol{x}$ で $\langle H\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\rangle\ge0$ のこと（<Ref to="mathematics/linear-algebra/spectral-theorem#def-positive-definite" text="正定値・半正定値" />）で、固有値がすべて $0$ 以上であることと同値です。

<Lemma id="lem-psd-root" title="半正定値行列の平方根の一意性">
$H$ を半正定値エルミート行列とする。$Q^2=H$ を満たす半正定値エルミート行列 $Q$ がただ一つ存在する。これを $H^{1/2}$ と書く。
</Lemma>

<Proof of="lem-psd-root">
存在: $H=U\operatorname{diag}(h_k)U^{*}$、$h_k\ge0$ に対し $Q=U\operatorname{diag}(\sqrt{h_k})U^{*}$ とします。

一意性: $Q$ を一つの半正定値な平方根とし、$Q$ の固有ベクトルからなる正規直交基底 $\boldsymbol{x}_k$（固有値 $q_k\ge0$）を取ります。$H\boldsymbol{x}_k=Q^2\boldsymbol{x}_k=q_k^2\boldsymbol{x}_k$ です。$H$ の固有値 $\mu$ に対する固有空間 $E_\mu$ の元 $\boldsymbol{x}=\sum c_k\boldsymbol{x}_k$ に対して $H\boldsymbol{x}=\sum c_kq_k^2\boldsymbol{x}_k=\mu\sum c_k\boldsymbol{x}_k$ ですから、$c_k\ne0$ なら $q_k^2=\mu$、すなわち $q_k=\sqrt\mu$ で、$Q\boldsymbol{x}=\sqrt\mu\,\boldsymbol{x}$ です。したがって $Q$ は各 $E_\mu$ 上で $\sqrt\mu$ 倍写像であり、$\mathbb{C}^n=\bigoplus E_\mu$（スペクトル定理）なので $Q$ は $H$ だけで決まります。
</Proof>

<Theorem id="thm-polar" title="極分解">
$A\in M_n(\mathbb{C})$ とする。ユニタリ行列 $U$ と半正定値エルミート行列 $P$ で $A=UP$ を満たすものが存在し、$P=(A^{*}A)^{1/2}$ は $A$ から一意に定まる。$A$ が正則ならば $U$ も一意である。同様に $A=P'U$（$P'=(AA^{*})^{1/2}$）とも書ける。
</Theorem>

<Proof of="thm-polar">
特異値分解 $A=W\Sigma V^{*}$（$W,V$ ユニタリ、$\Sigma$ は半正定値の対角行列）より、
$$
A=(WV^{*})(V\Sigma V^{*})=UP,\qquad U=WV^{*},\ P=V\Sigma V^{*}.
$$
$U$ はユニタリ行列の積でユニタリ、$P$ は半正定値エルミートです。$A=U'P'$ と別の分解があれば $A^{*}A=P'U'^{*}U'P'=P'^2$ で、<Ref to="lem-psd-root" /> から $P'=(A^{*}A)^{1/2}=P$ です。$A$ が正則なら $P$ も正則（$\det P^2=\det A^{*}A\ne0$）で、$U'=AP^{-1}=U$ です。$P'=W\Sigma W^{*}$ とすれば $A=(W\Sigma W^{*})(WV^{*})$ です。
</Proof>

<Example id="ex-polar" title="極分解の計算">
$A=\begin{pmatrix}3&0\\4&5\end{pmatrix}$ では $A^{*}A=\begin{pmatrix}25&20\\20&25\end{pmatrix}$ で、固有値 $45$（固有ベクトル $\tfrac1{\sqrt2}(1,1)$）と $5$（$\tfrac1{\sqrt2}(1,-1)$）です。平方根は
$$
P=\sqrt{45}\cdot\tfrac12\begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix}+\sqrt5\cdot\tfrac12\begin{pmatrix}1&-1\\-1&1\end{pmatrix}=\sqrt5\begin{pmatrix}2&1\\1&2\end{pmatrix}.
$$
$P^{-1}=\frac1{3\sqrt5}\begin{pmatrix}2&-1\\-1&2\end{pmatrix}$ より $U=AP^{-1}=\frac1{\sqrt5}\begin{pmatrix}2&-1\\1&2\end{pmatrix}$ は回転行列（角度は $\tan^{-1}\tfrac12$）です。実際 $UP=\begin{pmatrix}2&-1\\1&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}2&1\\1&2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}3&0\\4&5\end{pmatrix}$ で、$A$ は「固有方向 $(1,\pm1)$ に $3\sqrt5,\sqrt5$ 倍に伸縮してから回転」という合成です。
</Example>

## 6. シルヴェスターの慣性法則

座標変換をユニタリから一般の正則行列に広げると、エルミート行列の固有値自体は変わります（$S^{*}AS$ の固有値は $A$ のものと異なる）が、符号の分布は変わりません。2 次形式 $\langle A\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\rangle$ は変数変換 $\boldsymbol{x}=S\boldsymbol{y}$ で $\langle S^{*}AS\boldsymbol{y},\boldsymbol{y}\rangle$ に移る（**合同変換** $A\mapsto S^{*}AS$）ので、2 次形式の分類の問題です。

エルミート行列 $A$ について、正・負・零の固有値の個数（重複度を込める）を $n_+(A),n_-(A),n_0(A)$ と書きます。

<Theorem id="thm-sylvester-inertia" title="シルヴェスターの慣性法則">
$A$ を $n$ 次エルミート行列とする。

1. 正則行列 $S$ が存在して $S^{*}AS=\operatorname{diag}(I_p,-I_q,0_z)$ となり、$p=n_+(A)$、$q=n_-(A)$、$z=n_0(A)$。
2. $S$ が正則ならば $B=S^{*}AS$ のエルミート行列としての $n_\pm(B)$、$n_0(B)$ は $A$ のものと一致する。
</Theorem>

<Proof of="thm-sylvester-inertia">
1. $A=U\operatorname{diag}(\lambda_1,\ldots,\lambda_n)U^{*}$ を、正の固有値、負の固有値、零の順に並べたスペクトル分解とします。$D=\operatorname{diag}(d_k)$ を $\lambda_k\ne0$ のとき $d_k=|\lambda_k|^{-1/2}$、$\lambda_k=0$ のとき $d_k=1$ とし、$S=UD$ とおけば $S^{*}AS=D\operatorname{diag}(\lambda_k)D=\operatorname{diag}(\operatorname{sgn}\lambda_k)$ です。

2. 部分空間 $W$ が $A$ に関して**正**であるとは、$\boldsymbol{x}\in W\setminus\{0\}$ ならば $\langle A\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\rangle>0$ ということとし、$\pi_+(A)$ を正の部分空間の次元の最大値と定めます。主張 $\pi_+(A)=n_+(A)$ を示します。固有値が正の固有ベクトルが張る空間は、$\langle A\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\rangle=\sum\lambda_k|c_k|^2>0$ より正の部分空間なので、$\pi_+\ge n_+$ です。逆に $W$ を正の部分空間とし、$N$ を固有値 $\le0$ の固有ベクトルが張る空間（$\dim N=n-n_+$）とします。$N$ 上では $\langle A\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\rangle\le0$ なので $W\cap N=\{0\}$ です。次元公式（<Ref to="mathematics/linear-algebra/dual-and-quotient-spaces#prop-direct-sum-criteria" text="直和の判定と次元公式" /> の 1）から $\dim W+\dim N\le n$ で、$\dim W\le n_+$ です。

$B=S^{*}AS$ とすると、$\langle B\boldsymbol{y},\boldsymbol{y}\rangle=\langle AS\boldsymbol{y},S\boldsymbol{y}\rangle$ ですから、$W$ が $B$ に関して正であることと $SW$ が $A$ に関して正であることは同値で、$\dim SW=\dim W$ です。ゆえに $\pi_+(B)=\pi_+(A)$、すなわち $n_+(B)=n_+(A)$ です。$-A$ に同じ議論をして $n_-(B)=n_-(A)$、$n_0=n-n_+-n_-$ も一致します。
</Proof>

したがって、2 つのエルミート行列が合同であることは、慣性 $(n_+,n_-,n_0)$ が等しいことと同値で、実対称行列でも同じです。2 次形式 $x^2+4xy+y^2$ の係数行列 $\begin{pmatrix}1&2\\2&1\end{pmatrix}$ の固有値は $3,-1$ で慣性は $(1,1,0)$ ですが、平方完成 $(x+2y)^2-3y^2$ も $+,-$ が 1 つずつです。どの方法で変形しても同じ答えになることを、慣性法則が保証します。

<Remark id="rem-ldl">
ガウスの消去法が行の入れ替えなしで進むときは $A=LDL^{*}$（$L$ は単位下三角、$D$ は実対角）と書けます。$D=L^{-1}A(L^{-1})^{*}$ なので $A$ と $D$ は合同で、$D$ の対角成分（ピボット）の符号の個数が $A$ の慣性です。固有値を計算せずに $A$ の正定値性を判定できる（ピボットがすべて正）のはこの理由によります。
</Remark>

## 7. シンプレクティック形式とウィリアムソンの標準形

ここから実行列を扱います。$2n$ 次のブロック行列
$$
J=\begin{pmatrix}0&I_n\\-I_n&0\end{pmatrix}
$$
は $J^{\mathsf{T}}=-J$、$J^2=-I$、$J^{-1}=-J$ を満たします。ハミルトン力学では位置 $q$ と運動量 $p$ を並べた $\boldsymbol{x}=(q,p)^{\mathsf{T}}$ の空間（位相空間）に、双線形形式 $\omega(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})=\boldsymbol{x}^{\mathsf{T}}J\boldsymbol{y}$ が備わっています。

<Definition id="def-symplectic" title="シンプレクティック行列">
$S\in M_{2n}(\mathbb{R})$ が $S^{\mathsf{T}}JS=J$ を満たすとき（$\omega$ を保つとき）、$S$ を**シンプレクティック行列**という。その全体を $\mathrm{Sp}(2n,\mathbb{R})$ と書く。
</Definition>

<Proposition id="prop-symplectic-group" title="シンプレクティック群">
$S,S'\in\mathrm{Sp}(2n,\mathbb{R})$ とする。

1. $S$ は正則で $S^{-1}=J^{-1}S^{\mathsf{T}}J$。さらに $SJS^{\mathsf{T}}=J$ すなわち $S^{\mathsf{T}}\in\mathrm{Sp}(2n,\mathbb{R})$。
2. $SS'$ と $S^{-1}$ もシンプレクティック行列である（$\mathrm{Sp}(2n,\mathbb{R})$ は群）。
</Proposition>

<Proof of="prop-symplectic-group">
1. $S\boldsymbol{x}=0$ なら $J\boldsymbol{x}=S^{\mathsf{T}}JS\boldsymbol{x}=0$ より $\boldsymbol{x}=0$ なので $S$ は正則です。$(J^{-1}S^{\mathsf{T}}J)S=J^{-1}J=I$ から $S^{-1}=J^{-1}S^{\mathsf{T}}J$ です。$SS^{-1}=I$ に代入して $SJ^{-1}S^{\mathsf{T}}J=I$、すなわち $SJ^{-1}S^{\mathsf{T}}=J^{-1}$ で、$J^{-1}=-J$ から $SJS^{\mathsf{T}}=J$ です。
2. $(SS')^{\mathsf{T}}J(SS')=S'^{\mathsf{T}}(S^{\mathsf{T}}JS)S'=S'^{\mathsf{T}}JS'=J$。$S^{\mathsf{T}}JS=J$ の両辺に左から $S^{-\mathsf{T}}$、右から $S^{-1}$ を掛けると $J=S^{-\mathsf{T}}JS^{-1}=(S^{-1})^{\mathsf{T}}J S^{-1}$ です。
</Proof>

力学系の線形化（微小振動）に現れる正定値な 2 次形式 $H(\boldsymbol{x})=\tfrac12\boldsymbol{x}^{\mathsf{T}}A\boldsymbol{x}$ を、シンプレクティック変換で標準形に直すのがウィリアムソンの定理です。主役は、$J^{-1}$ を挟んだ反対称行列の標準形です。

この補題のねらいは、ウィリアムソンの標準形の証明で現れる反対称行列を、直交行列で「2 次元の回転の組」の形に直すことです。実反対称行列の固有値は複素数にならざるを得ないため、証明では一度複素エルミート行列 $iK$ に直してスペクトル定理を使い、最後に実部と虚部を取り出して実の基底に戻します。

<Lemma id="lem-antisymmetric-normal-form" title="反対称行列の標準形">
$K$ を $m$ 次の実反対称行列（$K^{\mathsf{T}}=-K$）で正則とする。このとき $m=2n$ は偶数で、$\mathbb{R}^{2n}$ の正規直交基底 $\boldsymbol{f}_1,\ldots,\boldsymbol{f}_n,\boldsymbol{e}_1,\ldots,\boldsymbol{e}_n$ と $\mu_1,\ldots,\mu_n>0$ が存在して、$K\boldsymbol{e}_k=\mu_k\boldsymbol{f}_k$、$K\boldsymbol{f}_k=-\mu_k\boldsymbol{e}_k$ となる。すなわち、これらを列に並べた直交行列 $O$ について
$$
O^{\mathsf{T}}KO=\begin{pmatrix}0&M\\-M&0\end{pmatrix},\qquad M=\operatorname{diag}(\mu_1,\ldots,\mu_n).
$$
</Lemma>

<Proof of="lem-antisymmetric-normal-form">
$\det K=\det K^{\mathsf{T}}=\det(-K)=(-1)^m\det K$ で $\det K\ne0$ なので $m$ は偶数です。$m$ についての帰納法で示します（$m=0$ は自明）。

$H=iK$ は複素エルミート行列です（$H^{*}=-iK^{\mathsf{T}}=iK$）。$H$ の固有値は実数で（<Ref to="mathematics/linear-algebra/spectral-theorem#lem-hermitian-real" text="エルミート行列の固有値と固有ベクトル" />）、$K$ が正則なので $0$ ではありません。$H\boldsymbol{z}=\mu\boldsymbol{z}$ の複素共役をとると、$K$ は実行列なので $H\bar{\boldsymbol{z}}=-\mu\bar{\boldsymbol{z}}$ です。したがって固有値は $\pm$ の対で現れ、正の固有値 $\mu$ が存在します。その長さ $1$ の固有ベクトルを $\boldsymbol{z}=\boldsymbol{x}+i\boldsymbol{y}$（$\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}$ は実ベクトル）とします。$iK\boldsymbol{z}=\mu\boldsymbol{z}$ から $K\boldsymbol{z}=-i\mu\boldsymbol{z}=\mu\boldsymbol{y}-i\mu\boldsymbol{x}$ で、実部と虚部を比べて
$$
K\boldsymbol{x}=\mu\boldsymbol{y},\qquad K\boldsymbol{y}=-\mu\boldsymbol{x}
$$
です。$\boldsymbol{z}$（固有値 $\mu$）と $\bar{\boldsymbol{z}}$（固有値 $-\mu\ne\mu$）はエルミート行列の異なる固有値の固有ベクトルなので直交し、$0=\langle\boldsymbol{z},\bar{\boldsymbol{z}}\rangle=\sum_jz_j\overline{\bar z_j}=\sum_jz_j^2=\|\boldsymbol{x}\|^2-\|\boldsymbol{y}\|^2+2i\,\boldsymbol{x}\cdot\boldsymbol{y}$ から $\|\boldsymbol{x}\|=\|\boldsymbol{y}\|$、$\boldsymbol{x}\perp\boldsymbol{y}$ です。$\|\boldsymbol{x}\|^2+\|\boldsymbol{y}\|^2=1$ なので $\boldsymbol{e}=\sqrt2\boldsymbol{x}$、$\boldsymbol{f}=\sqrt2\boldsymbol{y}$ は正規直交で $K\boldsymbol{e}=\mu\boldsymbol{f}$、$K\boldsymbol{f}=-\mu\boldsymbol{e}$ です。

$W=\{\boldsymbol{e},\boldsymbol{f}\}^{\perp}$ は $K$ で不変です。実際 $\boldsymbol{w}\in W$ なら $\langle K\boldsymbol{w},\boldsymbol{e}\rangle=-\langle\boldsymbol{w},K\boldsymbol{e}\rangle=-\mu\langle\boldsymbol{w},\boldsymbol{f}\rangle=0$、$\boldsymbol{f}$ も同様です。$K|_W$ は単射（$K$ が単射）なので $W$ 上で可逆な反対称作用素で、$W$ の正規直交基底に関する表現行列は $m-2$ 次の正則な実反対称行列です。帰納法の仮定を適用し、得られた基底に $\boldsymbol{e},\boldsymbol{f}$ を加えます。
</Proof>

定理の証明の方針は、$A^{1/2}$ で座標を変えて $A$ を単位行列にし（このとき $J$ は反対称行列 $K$ に変わります）、上の補題で $K$ を標準形にしたうえで、$J$ に戻るように各軸の長さを整えることです。

<Theorem id="thm-williamson" title="ウィリアムソンの標準形">
$A$ を $2n$ 次の正定値実対称行列とする。シンプレクティック行列 $S\in\mathrm{Sp}(2n,\mathbb{R})$ と正の実数 $d_1,\ldots,d_n$ が存在して
$$
S^{\mathsf{T}}AS=\begin{pmatrix}D&0\\0&D\end{pmatrix},\qquad D=\operatorname{diag}(d_1,\ldots,d_n)
$$
となる。さらに $\{d_k\}$（**シンプレクティック固有値**）は順序を除いて一意で、$\pm id_1,\ldots,\pm id_n$ は $JA$ の固有値のすべてである。
</Theorem>

<Proof of="thm-williamson">
$R=A^{1/2}$（正定値実対称行列、<Ref to="lem-psd-root" />）とし、$K=R^{-1}JR^{-1}$ とおくと、$K^{\mathsf{T}}=R^{-1}J^{\mathsf{T}}R^{-1}=-K$ で、$K$ は正則な実反対称行列です。<Ref to="lem-antisymmetric-normal-form" /> の直交行列 $O$ と $M=\operatorname{diag}(\mu_k)$ をとり、$W=\operatorname{diag}(M^{-1/2},M^{-1/2})$、
$$
S=R^{-1}OW
$$
とおきます。このとき
$$
S^{\mathsf{T}}AS=W^{\mathsf{T}}O^{\mathsf{T}}R^{-1}(R^2)R^{-1}OW=W^{\mathsf{T}}W=\begin{pmatrix}M^{-1}&0\\0&M^{-1}\end{pmatrix},
$$
$$
S^{\mathsf{T}}JS=W^{\mathsf{T}}O^{\mathsf{T}}(R^{-1}JR^{-1})OW=W^{\mathsf{T}}\begin{pmatrix}0&M\\-M&0\end{pmatrix}W=\begin{pmatrix}0&M^{-1/2}MM^{-1/2}\\-M^{-1/2}MM^{-1/2}&0\end{pmatrix}=J
$$
です。したがって $S$ はシンプレクティックで、$d_k=1/\mu_k$ とおけば標準形が得られます。

一意性: $S^{\mathsf{T}}AS=\Delta:=\operatorname{diag}(D,D)$ とすると $A=S^{-\mathsf{T}}\Delta S^{-1}$ で、<Ref to="prop-symplectic-group" /> の $SJS^{\mathsf{T}}=J$ から $JS^{-\mathsf{T}}=SJ$ なので $JA=SJ\Delta S^{-1}$、すなわち $JA$ は $J\Delta=\begin{pmatrix}0&D\\-D&0\end{pmatrix}$ と相似です。この行列は $2\times2$ ブロック $\begin{pmatrix}0&d_k\\-d_k&0\end{pmatrix}$（固有値 $\pm id_k$）に置換で分解されるので、固有値は $\pm id_k$ です。ゆえに $\{d_k\}$ は $JA$ の固有値の虚部の絶対値として $A$ から決まります。
</Proof>

物理的には $H(\boldsymbol{x})=\frac12\boldsymbol{x}^{\mathsf{T}}A\boldsymbol{x}$ が、正準座標の線形変換 $\boldsymbol{x}=S\boldsymbol{x}'$（正準交換関係を保つ）によって $\sum_kd_k\frac{q_k'^2+p_k'^2}{2}$、すなわち角振動数 $d_k$ の調和振動子の和になるということです。$A$ の通常の固有値（ユニタリ・直交変換による）と、シンプレクティック固有値 $d_k$ は一般に別物です。

<Example id="ex-williamson-n1" title="自由度 1 の場合">
$n=1$（$2\times2$）では $\mathrm{Sp}(2,\mathbb{R})=SL(2,\mathbb{R})$（行列式 $1$ の行列）ですから、$S^{\mathsf{T}}AS=d\,I_2$ の両辺の行列式をとると $\det A=d^2$、$d=\sqrt{\det A}$ です。$A=\begin{pmatrix}2&1\\1&1\end{pmatrix}$ なら $d=1$。実際 $JA=\begin{pmatrix}1&1\\-2&-1\end{pmatrix}$ のトレースは $0$、行列式は $1$ で固有値は $\pm i$ です。一方 $A$ 自身の固有値は $\frac{3\pm\sqrt5}2$ で $d$ とは異なります。
</Example>

## 8. 高木分解

実対称行列はユニタリ（直交）行列で対角化できました。複素**対称**行列（$A^{\mathsf{T}}=A$、エルミートでない）には、$U^{*}AU$ ではなく $U^{\mathsf{T}}AU$ の形の対角化がありますが、対角成分は特異値になります。

<Theorem id="thm-takagi" title="高木分解">
$A\in M_n(\mathbb{C})$ が $A^{\mathsf{T}}=A$ を満たすなら、ユニタリ行列 $U$ と $\sigma_1,\ldots,\sigma_n\ge0$ が存在して
$$
A=U\operatorname{diag}(\sigma_1,\ldots,\sigma_n)U^{\mathsf{T}}
$$
となる。$\sigma_k$ は $A$ の特異値（$0$ を含めて重複度を込める）である。
</Theorem>

高木分解の証明では、複素対称行列 $A=X+iY$ の実部と虚部から 2 倍の大きさの実対称行列を作り、その実固有ベクトルから $A\bar{\boldsymbol{z}}=\sigma\boldsymbol{z}$ を満たすベクトルを取り出します。これを 1 つ見つけたら、シュール分解と同じ帰納法で次数を 1 つ下げます。

<Proof of="thm-takagi">
$n$ についての帰納法で示します。$n=1$ は $A=(a)$、$a=|a|e^{i\theta}$ に対し $U=(e^{i\theta/2})$ です。$n\ge2$ とします。

**(i) $A\bar{\boldsymbol{z}}=\sigma\boldsymbol{z}$ となる $\sigma\ge0$ と単位ベクトル $\boldsymbol{z}$ の存在。** $A=X+iY$（$X,Y$ は実対称行列。実部・虚部の成分を取るとそれぞれ対称）とし、実対称行列 $M=\begin{pmatrix}X&Y\\Y&-X\end{pmatrix}$ を考えます。実対称行列には実固有ベクトルがある（<Ref to="mathematics/linear-algebra/spectral-theorem#cor-real-symmetric" text="実対称行列の直交対角化" />）ので、$M\begin{pmatrix}\boldsymbol{u}\\\boldsymbol{v}\end{pmatrix}=\lambda\begin{pmatrix}\boldsymbol{u}\\\boldsymbol{v}\end{pmatrix}$（$\lambda\in\mathbb{R}$、$(\boldsymbol{u},\boldsymbol{v})\ne0$）となるものを取ります。$\boldsymbol{z}=\boldsymbol{u}+i\boldsymbol{v}\ne0$ とすると
$$
A\bar{\boldsymbol{z}}=(X+iY)(\boldsymbol{u}-i\boldsymbol{v})=(X\boldsymbol{u}+Y\boldsymbol{v})+i(Y\boldsymbol{u}-X\boldsymbol{v})=\lambda\boldsymbol{u}+i\lambda\boldsymbol{v}=\lambda\boldsymbol{z}.
$$
$\lambda<0$ のときは $\boldsymbol{z}$ を $i\boldsymbol{z}$ に取り替えると $A\overline{(i\boldsymbol{z})}=-iA\bar{\boldsymbol{z}}=-i\lambda\boldsymbol{z}=(-\lambda)(i\boldsymbol{z})$ ですから、$\sigma=|\lambda|\ge0$ として同じ形の関係式が得られます。$\|\boldsymbol{z}\|=1$ に正規化します。

**(ii) ブロック分解。** $\boldsymbol{u}_1=\bar{\boldsymbol{z}}$ を含む正規直交基底 $\boldsymbol{u}_1,\ldots,\boldsymbol{u}_n$ を取り、列に並べたユニタリ行列を $U_1$ とします。$B=U_1^{\mathsf{T}}AU_1$ の $(1,j)$ 成分は
$$
\boldsymbol{u}_1^{\mathsf{T}}A\boldsymbol{u}_j=\boldsymbol{z}^{*}A\boldsymbol{u}_j=(A^{*}\boldsymbol{z})^{*}\boldsymbol{u}_j=(\bar A\boldsymbol{z})^{*}\boldsymbol{u}_j=(\sigma\bar{\boldsymbol{z}})^{*}\boldsymbol{u}_j=\sigma\boldsymbol{z}^{\mathsf{T}}\boldsymbol{u}_j=\sigma\,\boldsymbol{u}_1^{*}\boldsymbol{u}_j=\sigma\delta_{1j}
$$
です（$A^{*}=\bar A$ は $A^{\mathsf{T}}=A$ から、$\bar A\boldsymbol{z}=\overline{A\bar{\boldsymbol{z}}}=\sigma\bar{\boldsymbol{z}}$、$\boldsymbol{u}_1^{*}=\boldsymbol{z}^{\mathsf{T}}$）。$B$ は対称なので $B=\sigma\oplus A'$、$A'$ は $n-1$ 次の複素対称行列です。帰納法の仮定 $A'=U'\Sigma'U'^{\mathsf{T}}$ から $B=(1\oplus U')(\sigma\oplus\Sigma')(1\oplus U')^{\mathsf{T}}$ です。$U_1$ はユニタリなので $(U_1^{\mathsf{T}})^{-1}=\overline{U_1}$、$U_1^{-1}=U_1^{*}=\overline{U_1}^{\,\mathsf{T}}$ であり、$B=U_1^{\mathsf{T}}AU_1$ から $A=\overline{U_1}\,B\,\overline{U_1}^{\,\mathsf{T}}$ です。したがって $U=\overline{U_1}(1\oplus U')$ と $\Sigma=\sigma\oplus\Sigma'$ で $A=U\Sigma U^{\mathsf{T}}$ を得ます。

**(iii) 特異値。** $A^{*}A=\bar U\Sigma U^{*}U\Sigma U^{\mathsf{T}}=\bar U\Sigma^2\bar U^{*}$ より、$A^{*}A$ の固有値は $\sigma_k^2$ で、$\sigma_k\ge0$ は特異値です。
</Proof>

この分解は、ボソン系の複素対称な係数（対生成項）を持つ 2 次ハミルトニアンの正準変換や、超伝導体のペアリング項の標準化に使われます。なお、実対称行列が半正定値ならば、通常の直交対角化 $A=Q\Lambda Q^{\mathsf{T}}$ が（$U=Q$、$\Sigma=\Lambda$ として）そのまま高木分解です。固有値が負のものがあると、符号を位相 $e^{i\pi/2}$ に押し込んだ複素の $U$ が必要になります。

## 9. 行列の指数関数と対数

正方行列 $A$ に対し、作用素ノルム $\|A\|=\max_{\|\boldsymbol{x}\|=1}\|A\boldsymbol{x}\|$ は積について $\|AB\|\le\|A\|\|B\|$ を満たし（$\|AB\boldsymbol{x}\|\le\|A\|\|B\boldsymbol{x}\|\le\|A\|\|B\|\|\boldsymbol{x}\|$）、各成分は $|a_{ij}|=|\langle A\boldsymbol{e}_j,\boldsymbol{e}_i\rangle|\le\|A\|$ を満たします。

<Definition id="def-matrix-exponential" title="行列の指数関数">
$A\in M_n(\mathbb{C})$ に対し
$$
e^{A}=\exp A=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{A^k}{k!}
$$
と定める。
</Definition>

各成分 $\bigl((A^k)_{ij}\bigr)/k!$ の絶対値は $\|A\|^k/k!$ 以下で、$\sum_k\|A\|^k/k!=e^{\|A\|}<\infty$ ですから、比較判定法（<Ref to="mathematics/calculus/series-and-convergence#thm-comparison" text="比較判定法" />）と絶対収束級数の収束（<Ref to="mathematics/calculus/series-and-convergence#thm-abs-convergence" text="絶対収束級数は収束する" />）により、級数は成分ごとに収束します。

<Theorem id="thm-exponential-properties" title="行列の指数関数の基本性質">
$A,B\in M_n(\mathbb{C})$ とする。

1. $AB=BA$ ならば $e^{A+B}=e^{A}e^{B}$。とくに $e^{A}$ は正則で $(e^{A})^{-1}=e^{-A}$。
2. $P$ が正則ならば $e^{PAP^{-1}}=Pe^{A}P^{-1}$。
3. $(e^{A})^{\mathsf{T}}=e^{A^{\mathsf{T}}}$、$(e^{A})^{*}=e^{A^{*}}$。
4. $\det e^{A}=e^{\operatorname{tr}A}$。
5. $A=U\operatorname{diag}(a_1,\ldots,a_n)U^{*}$ とユニタリ対角化できるなら $e^{A}=U\operatorname{diag}(e^{a_1},\ldots,e^{a_n})U^{*}$。$A$ が反エルミート行列（$A^{*}=-A$）なら $e^{A}$ はユニタリ、エルミート行列なら $e^{A}$ は正定値エルミート行列である。
</Theorem>

<Proof of="thm-exponential-properties">
1. $AB=BA$ なら二項定理が使え、$\frac1{k!}(A+B)^k=\sum_{j+l=k}\frac{A^j}{j!}\frac{B^l}{l!}$ です。二重級数 $\sum_{j,l}\frac{\|A\|^j\|B\|^l}{j!\,l!}=e^{\|A\|}e^{\|B\|}$ が収束するので、各成分の二重級数は絶対収束し、和をとる順序によらない（<Ref to="mathematics/calculus/series-and-convergence#thm-double-series" /> の 2 で、$j+l=k$ ごとにまとめた和と、$j$ ごと・$l$ ごとの累次和が一致する）ことから $e^{A+B}=e^{A}e^{B}$ を得ます。$B=-A$ とすると $e^{A}e^{-A}=e^{0}=I$ です。
2. $(PAP^{-1})^k=PA^kP^{-1}$ で、$X\mapsto PXP^{-1}$ は線形かつ連続（成分の一次結合）なので無限和と交換します。
3. 転置・随伴は成分の入れ替えと共役で、無限和と交換し、$(A^k)^{*}=(A^{*})^k$ です。
4. シュール分解 $A=UTU^{*}$（<Ref to="thm-schur" />）をとります。上三角行列の $k$ 乗は上三角で対角成分が $t_{ii}^k$ なので、$e^{T}$ は上三角で対角成分が $e^{t_{ii}}$ です。2 より $e^{A}=Ue^{T}U^{*}$ なので、$\det e^{A}=\det e^{T}=\prod e^{t_{ii}}=e^{\sum t_{ii}}=e^{\operatorname{tr}T}=e^{\operatorname{tr}A}$（相似でトレースは不変: <Ref to="mathematics/linear-algebra/eigenvalues#thm-similar-invariant" text="特性多項式と固有空間の相似不変性" />）。
5. 前半は 2 と対角行列での計算から。反エルミートなら $A^{*}$ と $A$ は可換で、3 と 1 から $(e^{A})^{*}e^{A}=e^{A^{*}}e^{A}=e^{-A}e^{A}=I$ です。エルミートなら固有値 $a_k$ は実数で $e^{A}$ の固有値 $e^{a_k}>0$ です。
</Proof>

エルミート行列について、指数関数の逆が定義できます。

<Theorem id="thm-matrix-logarithm" title="行列の対数">
$\exp$ は、$n$ 次エルミート行列全体から $n$ 次の正定値エルミート行列全体への全単射である。その逆写像を $\log$ と書く。$P=U\operatorname{diag}(p_k)U^{*}$ に対し $\log P=U\operatorname{diag}(\log p_k)U^{*}$。
</Theorem>

<Proof of="thm-matrix-logarithm">
<Ref to="thm-exponential-properties" /> の 5 により $\exp$ の像は正定値エルミート行列に含まれます。全射: $P=U\operatorname{diag}(p_k)U^{*}$（$p_k>0$）に対し $H=U\operatorname{diag}(\log p_k)U^{*}$ とおくと $e^{H}=P$ です。単射: エルミート行列 $H,H'$ が $e^{H}=e^{H'}=P$ を満たすとします。$H$ の正規直交固有ベクトル $\boldsymbol{x}_k$（固有値 $h_k$）について $P\boldsymbol{x}_k=e^{h_k}\boldsymbol{x}_k$ です。$P$ の固有値 $p$ の固有空間 $E_p$ の元 $\boldsymbol{x}=\sum c_k\boldsymbol{x}_k$ では $P\boldsymbol{x}=\sum c_ke^{h_k}\boldsymbol{x}_k=p\sum c_k\boldsymbol{x}_k$ なので、$c_k\ne0$ なら $e^{h_k}=p$、すなわち $h_k=\log p$（実数上で $\exp$ は単射）で、$H\boldsymbol{x}=(\log p)\boldsymbol{x}$ です。$H'$ についても同様なので、$H$ と $H'$ は各 $E_p$ 上で $(\log p)$ 倍写像として一致し、$\mathbb{C}^n=\bigoplus_pE_p$ から $H=H'$ です。
</Proof>

<Example id="ex-exponential" title="2 次の例">
$J_0=\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}$ は $J_0^2=-I$ なので、級数を偶数次と奇数次に分けて $e^{tJ_0}=\cos t\,I+\sin t\,J_0=\begin{pmatrix}\cos t&\sin t\\-\sin t&\cos t\end{pmatrix}$（回転行列）です。実際 $\det e^{tJ_0}=e^{t\operatorname{tr}J_0}=1$ と一致します。エルミート行列 $H=\begin{pmatrix}2&1\\1&2\end{pmatrix}=2I+\sigma_x$（$\sigma_x=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$、$\sigma_x^2=I$）では $e^{H}=e^2(\cosh1\,I+\sinh1\,\sigma_x)$、固有値は $e^3,e^1$ です。また、ケイリー・ハミルトンの定理（<Ref to="thm-cayley-hamilton" />）により $A^n,A^{n+1},\ldots$ は $I,A,\ldots,A^{n-1}$ の線形結合なので、$e^{A}$ も $A$ の多項式（次数 $n-1$ 以下）で書けます。
</Example>

力学では、$H$ を実対称行列としたとき $\dot{\boldsymbol{x}}=JH\boldsymbol{x}$ の解の流れ $e^{tJH}$ がシンプレクティックになります。

<Proposition id="prop-hamiltonian-flow" title="ハミルトン流はシンプレクティック">
$H$ を $2n$ 次実対称行列とすると、すべての $t\in\mathbb{R}$ に対して $e^{tJH}\in\mathrm{Sp}(2n,\mathbb{R})$。
</Proposition>

<Proof of="prop-hamiltonian-flow">
$X=JH$ とおくと $X^{\mathsf{T}}=H^{\mathsf{T}}J^{\mathsf{T}}=-HJ$、一方 $J^{-1}XJ=HJ$ なので $X^{\mathsf{T}}=-J^{-1}XJ$ です。<Ref to="thm-exponential-properties" /> の 3 と 2 から
$$
(e^{tX})^{\mathsf{T}}=e^{tX^{\mathsf{T}}}=e^{J^{-1}(-tX)J}=J^{-1}e^{-tX}J.
$$
したがって $(e^{tX})^{\mathsf{T}}J\,e^{tX}=J^{-1}e^{-tX}J\cdot J\cdot e^{tX}=J^{-1}e^{-tX}(-I)e^{tX}=-J^{-1}=J$ です（$J^2=-I$、$e^{-tX}e^{tX}=I$、$J^{-1}=-J$）。
</Proof>

## 10. 演習

<Exercise id="exr-cayley-hamilton-use" difficulty="易">
$A=\begin{pmatrix}2&1\\1&1\end{pmatrix}$ について、ケイリー・ハミルトンの定理を用いて $A^{-1}$ を $A$ の多項式で書き、さらに $A^{3}$ を $aA+bI$ の形で表せ。
<Solution>
$\varphi_A(t)=t^2-3t+1$ なので $A^2=3A-I$ です。$A(3I-A)=I$ から $A^{-1}=3I-A=\begin{pmatrix}1&-1\\-1&2\end{pmatrix}$（$AA^{-1}=I$ を直接確かめられます）。また $A^3=A\cdot A^2=3A^2-A=3(3A-I)-A=8A-3I$ です。
</Solution>
</Exercise>

<Exercise id="exr-normal-singular-values" difficulty="標準">
$A$ が正規行列で固有値が $d_1,\ldots,d_n$ のとき、特異値は $|d_k|$（$0$ を除く）であることを示せ。エルミート行列 $\begin{pmatrix}3&0\\0&-2\end{pmatrix}$ の特異値分解を一つ書け。
<Solution>
<Ref to="prop-normal-characterization" /> より $A=UDU^{*}$（$D=\operatorname{diag}(d_k)$）で、$A^{*}A=UD^{*}DU^{*}=U\operatorname{diag}(|d_k|^2)U^{*}$ です。$A^{*}A$ の $0$ でない固有値は $|d_k|^2$ で、その平方根が特異値（<Ref to="thm-svd" />）です。後半は $\sigma_1=3,\sigma_2=2$ で、$A=U\Sigma V^{*}$ を $U=I$、$\Sigma=\operatorname{diag}(3,2)$、$V=\operatorname{diag}(1,-1)$ にとれます（$V^{*}=V$ で $U\Sigma V^{*}=\operatorname{diag}(3,-2)$）。
</Solution>
</Exercise>

<Exercise id="exr-inertia-form" difficulty="標準">
2 次形式 $q(x,y,z)=2xy+2yz$ の慣性 $(n_+,n_-,n_0)$ を、変数変換と固有値の 2 通りで求めよ。
<Solution>
$q=2y(x+z)=\tfrac12\bigl[(x+y+z)^2-(-x+y-z)^2\bigr]$ です（$4ab=(a+b)^2-(a-b)^2$ で $a=y$、$b=x+z$）。$u=x+y+z$、$w=-x+y-z$、$z$ を新しい変数とする変換は、行列 $\begin{pmatrix}1&1&1\\-1&1&-1\\0&0&1\end{pmatrix}$（行列式 $2\ne0$）で可逆なので、$q=\tfrac12u^2-\tfrac12w^2$ から慣性は $(1,1,1)$ です。係数行列 $\begin{pmatrix}0&1&0\\1&0&1\\0&1&0\end{pmatrix}$ の特性多項式は $t^3-2t$ で固有値は $\sqrt2,0,-\sqrt2$ だから慣性は $(1,1,1)$ で一致します（<Ref to="thm-sylvester-inertia" />）。
</Solution>
</Exercise>

<Exercise id="exr-takagi-small" difficulty="標準">
複素対称行列 $A=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ の高木分解 $A=U\Sigma U^{\mathsf{T}}$ を求めよ。
<Solution>
特異値は $A^{*}A=I$ から $\sigma_1=\sigma_2=1$、$\Sigma=I$ です。$UU^{\mathsf{T}}=A$ を満たすユニタリ $U$ を探します。$U=\dfrac1{\sqrt2}\begin{pmatrix}1&i\\1&-i\end{pmatrix}$ は列が正規直交（第 1 列と第 2 列の内積は $\tfrac12\bigl(1\cdot\bar i+1\cdot\overline{(-i)}\bigr)=\tfrac12(-i+i)=0$）でユニタリ、$UU^{\mathsf{T}}=\tfrac12\begin{pmatrix}1&i\\1&-i\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&1\\i&-i\end{pmatrix}=\tfrac12\begin{pmatrix}1+i^2&1-i^2\\1-i^2&1+i^2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ となり $A$ に一致します。
</Solution>
</Exercise>

## 参考文献

- R. A. Horn and C. R. Johnson, *Matrix Analysis*, 2nd ed., Cambridge University Press, 2013 — ユニタリ相似（シュール分解）、エルミート行列と慣性、特異値分解と極分解、高木分解を扱う各章。
- J. Williamson, "On the algebraic problem concerning the normal forms of linear dynamical systems", *American Journal of Mathematics* 58 (1936), 141–163 — ウィリアムソンの定理の原論文。
- V. I. Arnold, *Mathematical Methods of Classical Mechanics*, 2nd ed., Springer, 1989 — 付録 6（2 次ハミルトニアンの標準形）。
- T. Takagi, "On an algebraic problem related to an analytic theorem of Carathéodory and Fejér and on an allied theorem of Landau", *Japanese Journal of Mathematics* 1 (1924), 83–93.
- 佐武一郎『線型代数学』裳華房、1974 — ジョルダン標準形・ケイリー・ハミルトンの定理に関する章。
