# 束縛状態の個数：Zhislin の定理、Vugal'ter–Zhislin の有限性、Efimov 効果の骨格

> 中性原子と正イオンが無限個の束縛状態を持つ Zhislin の定理を試行関数と Glazman の補題で証明し、遠方の有効ポテンシャルが臨界 Hardy 定数より弱ければ有限個になる判定法と、それを超える逆 2 乗引力が生む Efimov 型の対数的な個数則を示す。
> https://rikai.mugen-giken.com/mathematics/coulomb-systems/zhislin-efimov

## 0. この記事の要点

原子の中の電子は、とびとびのエネルギーの値（束縛状態）しか取れません。中性の原子や陽イオンではその値が無限に並びますが、核電荷より電子が 1 個だけ多い陰イオン（$N=Z+1$）では有限個しかありません。この違いはどこから来るのか、という素朴な疑問がこの記事の出発点です。遠くにいる電子が、原子の残りの部分からどのくらいの強さの力を受けるか、その遠方での弱まり方を見れば、束縛状態の個数が無限か有限かが分かる、というのがこの記事の答えです。

- HVZ 定理は本質スペクトルの下端 $E_{N-1}$ を決めますが、その下の固有値の**個数**については何も言いません。個数は「1 個の粒子が遠くへ離れていくとき、それが感じる有効ポテンシャルの減衰の速さ」で決まります。基準は Hardy の不等式の臨界値、すなわち 3 次元の $-\frac12\Delta$ に対する $-\frac{1}{8|x|^2}$ です。
- **Zhislin の定理**: 原子で $N\lt Z+1$（中性原子と正イオン）なら、外側の電子は正味の電荷 $Z-N+1\gt0$ の Coulomb 引力を感じ、$1/r$ の引力は $1/r^2$ の運動エネルギーの損失に必ず勝つので、固有値は無限個です。証明は、イオンの基底状態と遠方の殻に置いた電子の積を試行関数にし、Newton の定理と Glazman の補題を使います。
- 逆に、遠方の有効ポテンシャルが $-c/|x|^2$（$c\lt\frac18$）より弱ければ固有値は有限個です。IMS 局所化を対数的な尺度で行うのが要点です。原子で $N\ge Z+1$ なら有限個であるという **Vugal'ter–Zhislin**（と Zhislin、Yafaev）の定理はこの機構によります。本章では 1 体の判定法を証明し、多体への持ち上げは主張として述べます。
- 臨界値をちょうど超える逆 2 乗引力 $-(s_0^2+\frac14)/r^2$ は、エネルギー $E$ 以下に $\frac{s_0}{2\pi}|\ln|E||$ 個程度の束縛状態を作ります。これを完全に証明します。2 体の共鳴から 3 体にこの有効ポテンシャルが現れるのが **Efimov 効果**で、同種ボソン 3 個では $s_0\approx1.00624$、相続く束縛エネルギーの比は約 $515$ です。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **本質スペクトル**: 作用素のスペクトルのうち、孤立した有限多重度の固有値を除いた部分。HVZ 定理はその下端を決めます。→ [多体系と HVZ 定理](/mathematics/spectral-scattering/hvz-theorem)
- **束縛電子数の上界**: 原子が束縛できる電子の個数の上限を調べる話。本章が数えるのは電子の個数ではなく、1 つの系の束縛状態（固有値）の個数です。→ [束縛電子数の上界と Thomas–Fermi 理論](/mathematics/coulomb-systems/ionization-bounds)
- **自己共役作用素**: 物理量に対応する作用素で、固有値やスペクトルが実数になるもの。→ [自己共役作用素](/mathematics/functional-analysis/self-adjoint-extensions#def-self-adjoint)
- **形式和**: 2 次形式の言葉で、2 つの作用素の和を定義する方法。→ [形式和](/mathematics/functional-analysis/form-sums-trotter-kato#def-form-sum)
- **ほとんど至るところ**: 測度が $0$ の集合を除いてすべての点で、という意味。→ [ほとんど至るところ](/mathematics/real-analysis/lebesgue-integral#def-ae)

</Aside>

## 1. 動機

前章までで、原子が「何個の電子を束縛できるか」を調べました。本章の問いは「束縛状態（$\sigma_{\mathrm{ess}}$ より下の固有値）が何個あるか」です。水素原子は無限個（Rydberg 系列 $-1/(2n^2)$）、$\mathrm{H}^-$ はちょうど 1 個（Hill 1977）です。この違いは、最後の電子を遠ざけたときに残る芯の電荷から来ます。水素では芯（陽子）の電荷は $+1$ で、遠方の電子は $-1/r$ の引力を感じます。$\mathrm{H}^-$ では芯（中性の水素原子）の電荷は $0$ で、遠方の電子が感じるのは分極による $-\alpha/r^4$ 程度の弱い引力です。

1 体の Schrödinger 作用素では、ポテンシャルが $-c/r^2$ より速く減衰すれば束縛状態は有限個、$-c/r^{2-\varepsilon}$ のように遅ければ無限個、という境界がよく知られています（[シュレーディンガー作用素の自己共役性と束縛状態](/mathematics/spectral-scattering/schrodinger-operators)）。境界にあたる $1/r^2$ では、係数と Hardy の定数との大小で決まります。本章は、この 1 体の描像を多体系の言葉に翻訳します。

[多体系と HVZ 定理](/mathematics/spectral-scattering/hvz-theorem) では、Zhislin の定理（<Ref to="mathematics/spectral-scattering/hvz-theorem#thm-zhislin" />）と Efimov 効果（<Ref to="mathematics/spectral-scattering/hvz-theorem#thm-efimov" />）を主張だけ述べました。Zhislin の定理はここで完全に証明します。Efimov 効果の完全な証明（Yafaev、Sobolev）は Faddeev 方程式の精密な解析を要するので、その「骨格」、すなわち有効ポテンシャルが逆 2 乗型であれば対数的に多くの束縛状態が生じることを証明し、多体からの還元は筋道を述べます。

（この章の続きは購入者向けです。）
