# 束縛電子数の上界と Thomas–Fermi 理論：Lieb の N < 2Z+1、Teller の非束縛定理、Lieb–Oxford 不等式

> 原子が束縛できる電子数が 2Z+1 未満であるという Lieb の定理を重み付き Hardy 不等式で証明し、Thomas–Fermi 汎関数の最小化と比較原理から Teller の非束縛定理を、Onsager の補題から Lieb–Oxford 不等式を導く。
> https://rikai.mugen-giken.com/mathematics/coulomb-systems/ionization-bounds

## 0. この記事の要点

原子核のまわりに電子をいくつまで束縛できるか、という素朴な問いを扱います。核の電荷が $Z$ のとき、電子を $Z$ 個より多く、しかもたくさん付け加えることはできるのでしょうか。この記事を読むと、電子の数に簡単な上限（$2Z+1$ 未満）があることを短い計算で確かめられ、その後半で出てくる Thomas–Fermi 理論（電子を密度だけで表す近似）と、電子どうしの反発の下からの評価（Lieb–Oxford 不等式）の道具立てがわかります。

- 核電荷 $Z$ の原子の $N$ 電子ハミルトニアン $H_N$ が、1 電子少ないイオンの基底エネルギー $E_{N-1}$ 以下に固有値を持つなら $N\lt2Z+1$ です（**Lieb の定理**）。証明は固有方程式に $|x_k|$（を正則化したもの）を掛けて積分し、3 角不等式 $(|x|+|y|)/|x-y|\ge1$ を使うだけで、統計にも依存しません。
- 鍵になるのは「$|x|$ を重みにした運動エネルギーは非負」という重み付き Hardy 型の不等式 $\mathrm{Re}\langle|x|u,-\Delta u\rangle\ge0$ で、基底状態表示（$u=v/|x|$ と置く計算）で示します。
- **Thomas–Fermi 汎関数**（電子の密度だけでエネルギーを表す近似理論のエネルギー） $\kappa\int\rho^{5/3}-\int V\rho+D(\rho,\rho)+U$ は、有界な球に台を持つ密度に制限すると弱コンパクト性だけで最小化元を持ち、最小化元は Thomas–Fermi 方程式 $\frac53\kappa\rho^{2/3}=\phi_+$ を満たします。
- 原子核を加えると Thomas–Fermi ポテンシャル $\phi$ は増える（最大値原理による比較）ことと、エネルギーが核電荷について凹であることを組み合わせて、**Teller の非束縛定理** $E^{\mathrm{TF}}\ge\sum_ke(Z_k)$ を証明します。
- 点電荷を一様帯電球で置き換える Onsager の補題から、**Lieb–Oxford 不等式** $\langle\sum_{i\lt j}|x_i-x_j|^{-1}\rangle\ge D(\rho,\rho)-C\int\rho^{4/3}$ を $C\approx3.94$ で証明します。これで [Lieb–Thirring 不等式と物質の安定性](/mathematics/spectral-scattering/lieb-thirring) の安定性の証明の部品がすべて揃います。
- 中性原子が束縛できる電子数は $Z+O(1)$ であろうという**イオン化予想**は未解決で、主張として述べます。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **基底状態**: ハミルトニアンのエネルギーが最も低い状態のこと。
- **2 電子原子と臨界核電荷**: 電子 2 個の原子が束縛状態を持つ核電荷の下限。この記事の最初の応用で使います。→ [2 電子原子と臨界核電荷](/mathematics/coulomb-systems/two-electron-atoms)
- **Lieb–Thirring 不等式**: 運動エネルギーの下からの評価。この記事の結果は、その章の安定性の証明の部品になります。→ [Lieb–Thirring 不等式と物質の安定性](/mathematics/spectral-scattering/lieb-thirring)
- **Fourier 変換**: 関数を波の重ね合わせに分解する変換。→ [Fourier 変換](/mathematics/fourier-analysis/fourier-transform#def-fourier-transform)
- **劣調和関数**: 球面上の平均が中心の値以上になる関数。最大値原理に使います。

</Aside>

## 1. 動機

周期表のどの原子にも、2 価の負イオン（$\mathrm{O}^{2-}$ のように孤立した状態で安定なもの）は見つかっていません。水素は $\mathrm{H}^-$ をつくりますが（[多体系と HVZ 定理](/mathematics/spectral-scattering/hvz-theorem)）、$\mathrm{H}^{2-}$ はつくりません。原子が束縛できる電子数の最大値 $N_c(Z)$ はどのくらいか、というのが**イオン化の問題**です。

素朴には、外側の電子は「核と残りの $N-1$ 電子」の正味の電荷 $Z-(N-1)$ を見るので、$N-1\ge Z$ になれば束縛されないと考えられます。しかし量子力学では内側の電子雲が外側の電子に応じて変形（分極）するので、この議論は正しくありません。実際 $\mathrm{H}^-$ では $N-1=Z$ でも束縛が起きます。1980 年代初めまで、$N_c(Z)$ が有限であることさえ、Ruskai と Sigal の結果まで知られていませんでした。

Lieb（1984）は $N_c(Z)\lt2Z+1$ という、驚くほど短い証明を持つ一様な上界を与えました。本章の前半はこの証明です。後半では、電子数の問題の半古典版である Thomas–Fermi 理論を扱います。Thomas–Fermi 理論は「中性原子が最大」（$N_c=Z$）であり、さらに「分子は束縛しない」（Teller の定理）という著しい性質を持ちます。後者は化学としては欠陥ですが、物質の安定性の証明では本質的な部品でした。同じ証明で必要だった電子間反発の下界、Lieb–Oxford 不等式も本章で証明します。

（この章の続きは購入者向けです。）
